研究課題/領域番号 |
19H03287
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
林 文男 首都大学東京, 理学研究科, 教授 (40212154)
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研究分担者 |
二橋 亮 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 主任研究員 (50549889)
土畑 重人 京都大学, 農学研究科, 助教 (50714995)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 交尾行動 / 形質痴漢 / 種分化 / 種内変異 / 種間交雑 |
研究実績の概要 |
トンボ類は昼行性で,よく発達した複眼によって配偶時に色彩などから同種認知を行う.そのため,トンボ類の体色,翅の模様,体型などが多様になっていると間会えられる.しかし,野外において稀に雑種個体が見つかることがあり,また,近縁種間の形態的分類が困難なグループも知られている.そこで,トンボ類の種間交雑の野外での実態を知るため,野外で雑種個体の発見に努め,採集された雑種と思われる個体の遺伝子解析を行った.ミトコンドリアDNA(母種由来)および核DNA(両親由来)の解析から,それらは雑種個体であることが明らかとなった.さらに,アオモンイトトンボ(東北南部以南に分布)とマンシュウイトトンボ(北海道と青森に分布)の2種を室内飼育下で人為的に交配させ,子世代(F1世代)を得た.その形態と遺伝子解析の結果,これら異種間で形態的にも遺伝的にも両種の特徴をもった子世代が生まれることが明らかになった.形態は量的遺伝形質であるため様々な段階の中間形を示したが,予想通り,ミトコンドリアDNAはメス由来,核DNAはオスとメスに由来していた.一方,アジア産トンボ類全体の中で日本産との種分化機構を将来的に明らかにする目的で,中国雲南省において3週間にわたる野外調査を行った.この調査は,中国の共同研究者とともに行い,日本産の種との形態比較と配偶行動の観察に関して成果を得ることができた.とくに翅に色班を有する種に関して,近縁種が同所的にいる場合といない場合で,翅の斑紋の大きさが変化する可能性を示唆するデータが集積しつつある.その違いが交雑防止のための形質置換なのか,配偶行動における性選択なのかは今後の実験的に検証しなくてはならない.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
種間交雑の野外での実態を明らかにした研究を行い,その結果をまとめた論文を2編(英語論文1編と和文論文1編)出版した.さらに飼育下で人工的に種間交雑を行わせ,その子(F1)の形態的,遺伝的解析を行い,雑種ではどのような形態的,遺伝的特徴があるのかを明らかにし,英文論文を1編出版した.野外調査に関しては,中国雲南省において,中国の研究者とともに共同研究を行った.
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今後の研究の推進方策 |
日本産カワトンボ属(Mnais属)2種に関する研究を今後精力的に進める必要がある.この2種については,これまで地域ごとに雑種崩壊が生じていると思われる集団,形質置換によって2種間で交雑が防止されていると考えられる集団,種分化完了しており複雑な翅多型が2種間で共通して見られる集団があることがわかっている.そこで,そうした地域において人為的な種間交雑を行い,その子(F1)がどのような運命になるかを明らかにする(カワトンボ属2種は5月から6月にかけて短期間で成虫の繁殖期が終わるため,採択初年度にそれを本格的に実施するには時間的制約があった).
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