研究課題
本研究は,多地点・高頻度環境DNA観測を行い,さまざまな時空間スケールにおける魚類群集構造の変動様式をMiFish法によって明らかにすることを第一の目的とした。また,MiFish法で得られたデータを最新の手法で定量化することにより,先の調査で明らかになった魚類群集構造の形成・維持機構を解き明かすことを第二の目的とした。本年度は,2017年8月から継続して行ってきた隔週調査を房総半島南部の岩礁海岸に設けた11測点で行い,2019年8月には計50回の調査を終えることができた。これら50回の調査で得られた計550サンプルについては,環境DNAの抽出とライブラリの調整を既に実施し,MiFish法による予備的解析が終了した。本年度に,ほとんどすべてのサンプルで検出されたクロダイ由来の環境DNAを定量し,魚類全体の環境DNA量が推定可能であることが確かめられた。また,この隔週調査はその後に月別調査に移行し,2021年5月16日現在で71回目の調査が終了している。今後,月別調査を継続していくことにより,魚類群集の長期変動をモニタリングすることになる。さらに,2019年11月と2020年5月には銚子の犬吠埼から房総半島南端の野島崎を経由して東京湾奥に至る千葉県沿岸全域に計100地点を設けて環境DNA調査を行った。この調査の目的は県という一つの行政区の魚類群集を網羅することにより,種数や群集構造が空間的にどのように変化するのか見ることにあった。これら2回の調査で得られた200サンプルについては,環境DNAの抽出とライブラリの調整を既に実施し,MiFish法による解析が終了した。本調査で計400種以上の沿岸魚類が検出され,種数については南高北低の傾向が太平洋岸でも東京湾側でも認められた。また,魚類群集の地理的構造も明瞭に捉えることができた。
2: おおむね順調に進展している
計50回の隔週調査を1つの欠測値もなく予定通りに実施することができた。その結果得られた計550サンプルについては,ライブラリ調整等の実験がすべて終了し,大量データを得ることができた。クロダイの定量PCRに基づくデータの半定量化に成功し,予備的データ解析の結果も予想以上のものが得られた。また,隔週調査を順調に月別調査に移行することができ,多地点高頻度の長期観測という魚類群集でかつてない時空間を網羅した調査が現実的になった(現在までに46回の月別調査を実施)。さらに,千葉県沿岸全域を網羅する100地点の調査を計2回行うことができ,そのデータの質は予想を上回る精度のものであったことは,当初の計画を超えた成果として上げられる。
分担研究者が主体となって上記の隔週調査の時空間分析を進めており,その結果に基づき本年度に魚類群集の時空間動態に関する論文原稿を執筆する。全県調査(100地点 × 2回)のデータを解析して,同様に時空間解析を進めて論文執筆への準備を行う。また,前年度に引きつづき月別調査を継続して魚類群集の長期変動をモニタリングする。調査を開始してから年々水温が高くなっているため,この環境変化に対する応答があるかどうかも検討可能となる。さらに,次年度には潮汐が魚類群集検出にどのような影響を与えるのか,5月の干満が一番大きな日を選んで上げ潮時と下げ潮時に調査を行う。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 4件)
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