研究課題/領域番号 |
19H03300
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
市野 隆雄 信州大学, 学術研究院理学系, 教授 (20176291)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 標高種分化 / 草本植物 / 生態型 / 送粉昆虫 / 遺伝分化 / MIG-seq解析 / 適応進化 / 生物間相互作用 |
研究実績の概要 |
本年度は、まず、長野県の4つの山域を中心にキツリフネ葉サンプルの採取を行い、MIG-seq法を用いてゲノムワイドなSNPs探索を行い、得られたデータについて集団遺伝解析を行なった。その結果、各山域を単位とする遺伝的なまとまりが検出された一方、開花時期の異なる集団間での遺伝的な構造は認められなかった。加えて、距離による遺伝的隔離の傾向が認められた。これらの結果は、開花時期の集団間変異は山域ごとに独立に生じ、同一山域の集団間では遺伝子流動が維持されていることを示している。ただ、一部の調査地域(松本市、安曇野市)では、距離的に近い2集団の間で遺伝的分化が大きいという現象を見出した。これらの近距離2集団では、開花時期が互いに大きく異なっていた。 次に、東日本各地から採取したウツボグサ葉サンプルについて、MIG-seq法によって探索したSNPsを用いた系統解析を行った。その結果、東日本のウツボグサは大きく二つの系統に分けられた。そのうち長野県のほとんどの集団を含む一系統においては単系統性が支持され、距離による遺伝的隔離の傾向が認められた。しかし、もう一方の系統では北海道と長野県の集団が近縁になるなど地理的に明瞭な遺伝構造が見出されなかった。 最後に、オドリコソウとキバナノヤマオダマキについて、長野県の複数山域で花-訪花者の形態的なサイズマッチングの調査、および集団遺伝解析を行った。まず、両種とも、どの山域でも大型の訪花者が訪れる植物集団は花サイズが大型であり、小型の訪花者が訪れる植物集団は花サイズが小型であった。次に、両種とも、集団間の花サイズの類似度と遺伝的な類似度には関連性がなかった。これらの結果から、花サイズは、地域ごとの平均的な訪花者サイズに適応して山域間で独立に進化していることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、キツリフネについては、長野県37地点と北海道5地点において各地点4~8個体ずつ葉サンプルを採取した。全サンプルについてMIG-seq法によりゲノムワイドSNPsを得て解析を行った。加えて長野県内を中心に開花時期の記録を行い、7月中旬までに開放花の開花を確認できたキツリフネ集団を早咲き集団とした。解析の結果、距離による隔離の傾向が認められ、基本的に地理的に近い集団同士が近縁であることが示された。一方で、地理的な距離が近いわりに遺伝的に分化している集団が一部確認され、特に安曇野市では、花期の分化に対応した遺伝構造を確認できた。さらに、安曇野市で開花時期の異なる集団間で交配実験を行ったところ結実が認められ、潜在的には交配可能であることが明らかになった。 次に、ウツボグサについては、各集団の間で開花期や花サイズに変異があることが知られていたが、集団間の遺伝的分化については、これまでITS領域を用いた系統解析では集団間の遺伝的な変異を検出できていなかった。しかし、次世代シーケンサーを用いたMIG-seq解析によって集団間の遺伝的な構造を明らかにすることに成功した。同時に野外調査も行うことで花サイズと送粉者の情報も広く収集し、ウツボグサにおいて花サイズ、送粉者の利用様式の進化について解析を行えるだけのデータセットを手に入れつつある。 最後に、これまで、サラシナショウマ、オドリコソウ、キバナノヤマオダマキ、ウツボグサ、キツリフネについての遺伝解析をマイクロサテライトマーカーやMIG-seq法により推進してきた。いずれの植物も標高間の訪花昆虫相の違いや花形質についてのデータも合わせて取得している。これらの野外データと遺伝解析の結果を組み合わせることで、幅広い標高に生育する草本植物類における標高上下間の遺伝的分化についての理解を深めつつある。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、キツリフネの一部の集団において、交配可能であるにもかかわらず、開花時期の変異にともなう集団間遺伝分化が生じていることを明らかにした。キツリフネは多くの場合、沢沿いなど湿気の多い場所に生育しているが、安曇野市の高標高集団は尾根に位置し、夏季に乾燥する。したがって、この集団では夏季の乾燥に対する耐性を獲得する過程で繁殖時期が早まり、その結果、他集団との交配が妨げられている可能性がある。今後、早咲き集団と遅咲き集団の分布が重なっている地点を中心に、①MIG-seq法によりゲノムワイドSNPsを得て集団遺伝解析を行い、集団間の遺伝子流動の詳細を明らかにするとともに、②安曇野市の高標高(乾燥・早咲き)、中標高(早咲き・遅咲き混生)、低標高(湿潤・遅咲き)の各地点における実生からの生存曲線を確認し、高標高で夏季の乾燥による死亡が生じているかを確認する。加えて、③高標高1地点と低標高1地点の間で相互移植実験を行い、植物形質の遺伝的基盤や局所適応について検証する。 ウツボグサについては、本年度のMIG-seq解析によって得られたデータの学会発表を行ったが、さらにその内容を論文化すべくとりまとめを行っていく。さらに、本年度に広域からのサンプリングを行うととも花サイズ、送粉者利用様式のデータも取得したので、それらのサンプルを含めて再度MIG-seq法による解析を行い、花サイズ、送粉者利用様式の進化について検証を行うことを目指す。 その他の種については、これまでに野外での生態的データの蓄積があるラショウモンカズラ、ヤマホタルブクロ、ツリフネソウについて、MIG-seq法による遺伝解析を行う。すでに、植物サンプルおよびDNA抽出済みサンプルは手元にあり、すぐに遺伝解析に取り組んでいける状態である。
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