研究課題/領域番号 |
19H03300
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
市野 隆雄 信州大学, 学術研究院理学系, 教授 (20176291)
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研究分担者 |
陶山 佳久 東北大学, 農学研究科, 教授 (60282315)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 標高種分化 / 草本植物 / 生態型 / 送粉昆虫 / 遺伝分化 |
研究実績の概要 |
オドリコソウのマイクロサテライト領域およびキバナノヤマオダマキのMIG-seq法による集団遺伝解析を行った。その結果、当初予想していた標高上下間の遺伝的分化は検出されず、山域間の遺伝的分化が顕著に検出された。この2種では、集団毎の花形質と訪花者のサイズには関連があり、訪花者のサイズが淘汰圧となって花サイズの進化が生じたことが明らかになっている。集団間の遺伝的構造と花形質の類似性には関連がなく、花形質の大小に関わらず、山域間で遺伝的に分化している傾向が見られた。これらの結果と遺伝解析を組み合わせることにより、花形質が各山域で独立した進化をしていることを明らかにした。この2種における成果を国際誌へ投稿し、受理された。 長野県飛騨山脈東麓のキツリフネ集団は、早期繁殖を行う早咲き型が尾根に、十分な栄養成長の後に繁殖を始める遅咲き型が沢にそれぞれ分布しているが、両者の分布を制限する要因については不明である。 そこで、両者は乾湿への二極化した適応をしているという仮説をたて、①尾根と沢における無機的環境のモニタリング、および②両エコタイプの相互移植実験を行った。その結果、半年間の環境モニタリングでは、尾根/沢間の土壌水分量が顕著に異なることが示された。 相互移植実験では,沢由来の遅咲き型を尾根に移植すると、生存率、草丈の生長率が低下した(ホームサイトアドバンテージ)。一方、尾根由来の早咲き型の生存率は、尾根と沢の間で有意差がなく、草丈の生長率についてはむしろ沢での方が高かった。ホームサイトアドバンテージが認められなかった理由として、実験圃場において他種の植物を除去したため、種間競争の影響が排除されたことが挙げられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はオドリコソウ・オダマキの成果を論文として発表した。本年度はこれらに続くように、ヤマホタルブクロ・ツリフネソウ・ラショウモンカズラ・カキドオシを対象にMIG-seq法による遺伝解析を行った。現在、上記2種の植物の結果と比較しながら、解析を進めている。 本年度のキツリフネの相互移植実験では、観察個体数が多かったこと、特殊な自動散布様式を持つことから、生産種子数の計測が困難であった。このため、開放花数の計測のみを行ったが、予想に反し、圃場内での開放花数が閉鎖花数に比べて少なく、本年度のデータからは両タイプの繁殖力を比較できなかった。今後の展望として、観察個体数を減らし1個体当たりの観察時間を増やすことで、閉鎖花・開放花を区別した上での総生産種子数の計測を行うことで、早咲き型と遅咲き型の繁殖力を比較する。
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今後の研究の推進方策 |
現在は標高間で花形質が大きく異なる植物種に着目し、野外でのデータを集めている。今後はこれらの調査データと遺伝解析のデータを組み合わせて解析することにより、標高間の遺伝的分化の維持機構、山域間の花形質の独立進化について明らかにしていく。 2020年度に早咲き型と遅咲き型間の人工授粉実験を予備的におこない、外見上は正常な種子が形成されることを確認した。2021年度も小規模ながら人工授粉実験を行い、得られたF1種子を2021年の秋にポットに蒔き2022年度の発芽状況を確認すべく、飛騨山脈東麓の尾根/沢にそれぞれ同数ずつ設置している。2022年度は交雑種子のその後の運命を確認する。
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