研究課題/領域番号 |
19H03301
|
研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
村岡 裕由 岐阜大学, 流域圏科学研究センター, 教授 (20397318)
|
研究分担者 |
村山 昌平 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 総括研究主幹 (30222433)
中路 達郎 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 准教授 (40391130)
野田 響 国立研究開発法人国立環境研究所, 地球環境研究センター, 主任研究員 (60467214)
永井 信 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(地球表層システム研究センター), 主任研究員 (70452167)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 森林光合成 / フェノロジー / 気候変動 / 炭素循環 / 生理生態 |
研究実績の概要 |
本年はCOVID-19感染拡大のためフィールドでの合同調査や打合せの実施が強く制限され,さらに令和2年7月豪雨による通行遮断のために夏季一杯の高山サイトでの調査が中止され,研究実施に甚大な影響が出た。 高山でのミズナラとダケカンバの展葉・成熟・黄葉を長期観測と温暖化実験に基づいて解析した結果,展葉から成熟期の生理・形態の変化は積算気温に依存する一方,黄葉は温暖化処理により遅延するがタイミングや進行速度は年によって異なることが明らかになった。 ミズナラとダケカンバの葉の可視域と近赤外域の反射・透過性を4年分の季節変化データと個葉放射伝達モデルによって解析したところ,分光反射・透過率の季節変化は成長過程でのクロロフィル量増加と葉肉組織発達,老化過程でのクロロフィル量減少により生じることが明らかになった。また,個葉分光モデルから林冠分光モデルへの拡張も行った。 林冠の気象害の検出手法を苫小牧での林冠自動撮影データをもとに開発した。RGB情報から算出したGreen Ratio(GR)の変動を解析した結果,GR低下は葉齢と48時間最大風速によって有意に説明された。GR低下率は早期落葉量と正の相関にあり,台風上陸年では年間落葉量のうち最大37%に達することが推定された。 高山でのCO2フラックスの長期観測データを解析した結果,純生態系生産および総一次生産と夏季の葉面積指数の年々変動が有意な正の相関を示すこと,年積算生産量は夏季の生産量に依存することが明らかになった。 開葉・黄葉と気象条件の関係を求める統計的なモデルを用いて,中部日本の流域の上流と下流の2地点における過去約120年間の開葉日と落葉日の時空間分布を推定した結果,1900年の3.29日/100mと-2.89日/100mから2019年の2.85日/100mと-2.84日/100mにそれぞれ変化することが示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
日本では2020年3月に新型コロナウィルス感染症の拡大が始まり,これにより多くのフィールド調査や打合せの実施が困難となった。また,2020年9月にタイ王国での開催が計画されていた国際研究集会(第13回ILTER東アジア太平洋地域ネットワーク会合)が翌年に延期された。加えて,7月初めに起きた令和2年7月豪雨は本研究課題の重点サイトである岐阜大学・高山試験地周辺に土砂崩れなどの甚大な影響をもたらし,落葉広葉樹林の光合成生産力の主要時期である7月から8月末まで高山サイトに行くことができなかった。これらの災害によって当初計画していた研究活動が大きく被害を受けた。2020年度終了時点での進捗状況を以下に纏める。 高山サイトでの林冠木の葉フェノロジーの長期観測および温暖化実験のデータを利用して,生理生態的特性の季節変化予測モデルの開発を試行したところ,気温上昇による葉フェノロジーの変化はミズナラの個葉光合成量を約15%増加することが推定されるなど,過去の長期観測結果と同様の傾向を示す再現性を得た。また,個葉の分光―生理・形態モデルの解析によって落葉広葉樹林冠の分光反射特性のモデル予測が可能となり,季節性を生理生態学的に解釈することができるようになったことは大きな進展である。また,高山サイト周辺の広域情報から森林フェノロジーの時空間変動分布を統計モデルによって予測可能となったことは,過去と将来の気候変動影響を分析・予測する研究を進展させる成果である。 気候変動や極端気象は落葉広葉樹林の林冠構造や一次生産力に多大な影響をもたらすこともCO2フラックスの長期観測や,林冠画像分析から明らかになり,落葉広葉樹林に対する気候変動ストレスの高分解能衛星による監視技術とモデルによる炭素収支影響予測の発展に貢献する。高山サイトで本研究課題と連携して進められた研究成果も多く発表されたことも特記したい。
|
今後の研究の推進方策 |
林冠葉の生理・形態的特性の季節性に関する観測,および温暖化処理区での観測を継続し,葉フェノロジーおよび葉特性に対する気象条件の年々変動の影響と人工的な温暖化処理による影響の検証を行うとともにモデル化を進める。個葉スケールの観測や温暖化実験とともに,林冠の葉面積指数のフェノロジー観測も継続してモデル化やCO2フラックスとの関係の解析に備える。 落葉広葉樹個葉および林冠スケールの分光反射・透過特性の生理生態学的検証を引き続き行い,森林フェノロジーや生理生態学的特性の光学リモートセンシング技術の開発を進める。 研究代表者や分担者が高山サイトなどでの観測を中心に蓄積してきた植生リモートセンシングの技術的進展および今後の課題を取りまとめ,衛星リモートセンシングと地上観測の融合,および生態系・生物多様性分野の研究ネットワークとの連携による長期・広域の陸上生態系観測の方向性を検討する。 高山でのCO2フラックスの観測を継続し,引き続き森林の生産力に対する気候変動・極端気象の影響評価を行う。特に森林の葉面積指数やフェノロジーとの対応関係に注目した解析を行い,論文化を進める。 野外温暖化実験や森林炭素循環の長期観測に関する学術的知見やノウハウを国内外での研究集会で発表し,日本やアジア太平洋地域における気候変動―生態系観測のネットワーク拡大を目指す。特に,長期生態学研究ネットワーク(LTER),アジア太平洋生物多様性観測ネットワーク(APBON),日本やアジアフラックス研究ネットワーク(JapanFlux,AsiaFlux)との連携強化を図る。なお研究ネットワークへの展開については本年度に発表した論文(Takeuchi & Muraoka et al. 2021)でも述べており,特に高山のようなマスターサイトでのフェノロジー観測について議論・提案している。
|