研究課題/領域番号 |
19H03302
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中野 伸一 京都大学, 生態学研究センター, 教授 (50270723)
|
研究分担者 |
三木 健 龍谷大学, 先端理工学部, 教授 (00815508)
山口 保彦 滋賀県琵琶湖環境科学研究センター, 総合解析部門, 研究員 (50726221)
早川 和秀 滋賀県琵琶湖環境科学研究センター, 総合解析部門, 部門長 (80291178)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 湖沼 / 深水層 / 微生物ループ / CL500-11細菌 / キネトプラスチド鞭毛虫 |
研究実績の概要 |
●細菌群集を対象とするメタトランスクリプトーム解析:長期培養実験では溶存有機物(DOM)の解析と並行して、培養実験中の細菌の現存量と群集組成の解析を実施した。実験処理区ごとに細菌の現存量測定と16S rRNA 遺伝子アンプリコンシーケンスによる細菌群集組成解析を実施した。 ●DOMの濃度と化学組成、DOM 分解に寄与する細菌群集の特定:固相抽出を用いたDOMの分画濃縮法を確立した。ナノ膜による限外ろ過の回収試験も実施したところ、より低分子量のDOMの回収を行うには、固相抽出よりナノ膜による方法を進めるべきと判断された。小規模システム(数リットルスケール)での限外ろ過では、Permeation modelの適用を進め、モデル適用による実践的な高分子量分画と低分子量分画の決定法を確立した。一方、琵琶湖深水層の湖水をボトルに閉じ込めた小規模スケールでの有機物長期分解実験において、有機物濃度、DOM分子サイズ分布を、琵琶湖の天然深水層における月別の変遷と比較した。また、本実験における細菌群集組成解析のためのサンプルを採集した。 ●細菌によるDOM資化性の検討:MT2マイクロプレート培養実験では、琵琶湖表層と深層から採水し、細菌サイズ画分を除去した濾過水と無濾過水を8:1の割合で混合することによって、表層有機物+表層細菌、表層有機物+深層細菌、深層有機物+表層細菌、深層有機物+深層細菌の4つの組み合わせを作成し、それぞれの組み合わせで有機物の利用性を評価した。 ●原生生物による細菌の摂食速度測定と餌選択性:原生生物による細菌の摂食速度を測定した。蛍光標識された細菌(FLB)を採取した表層および深層湖水に添加し、一定時間培養した。その後、原生生物の細胞内に取り込まれているFLBを計数し、摂食速度を推定した。また、細菌生産量も15N-dA法を用いて推定した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
●細菌群集を対象とするメタトランスクリプトーム解析:深水層特異的な細菌系統は、低温培養区のみにおいて、100日を超える長期培養期間を経て増加した。深水層特異系統は沈降粒子等の系外からの有機物供給に依存しないこと、また低温環境に適応した細菌群であることが示された。これは深水層で優占する細菌が現場で二次的に生産された有機物を資源として増殖している可能性を示す重要な成果である。 ●溶存有機物(DOM)の濃度と化学組成、DOM分解に寄与する細菌群集の特定:昨年度までに小規模システムが確立した。室内実験では、琵琶湖深水層の湖水を用いた有機物長期分解実験を、循環期および成層期から開始した。天然深水層については、試料採取をほぼ毎月のペースで行い、全試料のバルク有機物濃度、DOM三次元蛍光組成が分析済で、循環期実験試料と天然深水層試料については、DOM分子サイズ分布も分析済である。 ●細菌によるDOM資化性の検討:MT2マイクロプレート実験の結果、成層期の表層細菌群集による表層由来有機物に対する分解能力は、深層由来有機物に対する分解能力を上回る局所適応パターンが検出された。一方、同様の局所適応パターンは深層細菌群集からは得られなかった。この結果は、深層の細菌群集が深層特異的な有機物の分解に対する局所適応を実現していない可能性を示唆している。 ●原生生物による細菌の摂食速度測定と餌選択性:細菌生産量および原生生物による細菌摂食速度には季節性があることを明らかにした。摂食速度が細菌生産量に占める割合は、表層では71~90%であり、湖内で増殖した細菌のほとんどが原生生物によって水中から除去されていた。一方深層では、摂食速度が細菌生産量に占める割合は24~28%であった。このことから、深層での細菌の消失に対して摂食以外の要因が関与している可能性が見いだされた。
|
今後の研究の推進方策 |
●細菌群集を対象とするメタトランスクリプトーム解析:琵琶湖沖帯サンプルについては、解析の前処理の手法の比較検討は完了したものの、シーケンス解析には至っておらず、解析は令和3年度に実施する。 ●溶存有機物(DOM)の濃度と化学組成、DOM分解に寄与する細菌群集の特定:今年度に小規模システムと中規模システムを組み合わせた分画・濃縮法について条件検討する。大規模システム(数百リットルスケール)の作成・立ち上げは、予定通り令和3年度に進める。また、採取した有機物分解実験試料および天然深水層湖水試料について、未分析の項目(栄養塩、アミノ酸組成、成層期実験のDOM分子サイズ分布等)の分析を進め、分解に伴うDOM組成の変化を詳細に明らかにする。さらに、分解実験のデータを解析して、深水層における高分子量DOMと低分子量DOMの生分解速度を算出し、現場におけるそれぞれの生成速度を推定する。 ●細菌によるDOM資化性の検討:培養実験については完了し、他の分担者による分析結果も踏まえて最終年度に数理モデルを構築する準備が整っている。具体的には、表層から深層に沈降するにしたがって質が変化する有機物と異なる質の有機物に選好性のある複数の細菌エコタイプ、異なる細菌タイプに選好性を示す摂食者、そして有機物および細菌の鉛直分布が季節的に変動する水塊構造を考慮した空間明示的な有機物-細菌群集-摂食者相互作用モデルを構築し、数値解析を行う。 ●原生生物による細菌の摂食速度測定と餌選択性:原生生物の餌選択性を評価するため、原生生物を化学固定し、ろ紙上に捕集した。2021年度はこのサンプルに対してPredator-prey double hybridizationを実施し、深層で優占するCL500-11細菌がどの原生生物に摂食されているのかを明らかにする。
|