研究課題/領域番号 |
19H03310
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
加藤 真悟 国立研究開発法人理化学研究所, バイオリソース研究センター, 開発研究員 (40554548)
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研究分担者 |
鈴木 庸平 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (00359168)
伊藤 隆 国立研究開発法人理化学研究所, バイオリソース研究センター, 特別嘱託研究員 (80321727)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 鉄酸化菌 / 鉄還元菌 / バイオミネラル / 分離培養 / メタゲノム |
研究実績の概要 |
本研究では、「多種多様な未培養微生物が酸化鉄ナノ鉱物の生成・溶解を駆動し、地球表層環境における様々な元素の挙動・循環を支配している」という作業仮説の検証を通じて、それらの未培養微生物を分離培養により同定し、地球表層環境における「酸化鉄ナノ鉱物の生成・溶解プロセスの実態」と「微生物-酸化鉄ナノ鉱物-多元素の相互作用」を解明することを目的とした。地球表層環境に普遍的に存在するナノサイズの酸化鉄鉱物は、重金属やヒ素など様々な元素を吸着する作用があり、環境中の元素循環を理解するための鍵となる物質である。この酸化鉄ナノ鉱物は、主に微生物の働きによって生成・溶解すると考えられているが、その生成・溶解プロセスに関しては、少数の既知モデル微生物の研究に基づいた限定的な知見しか得られていない。本研究によって得られる成果は、自然界の元素循環に対する新たな視点を提示するものであり、さらには資源枯渇や環境汚染問題解決へ向けた応用バイオ技術の飛躍的な発展に貢献する可能性を秘めている。 今年度は、昨年度得られた新規鉄酸化菌・鉄還元菌の性状解析および全ゲノム解析、さらには新たな分離株の獲得を行った。新規鉄酸化菌1株については、鉄還元能をもつことも見出され、中性pH付近で鉄酸化および鉄還元によって増殖できることが示された世界初の菌株であった。本株の全ゲノム解析の結果、鉄酸化および鉄還元に関わると予想される遺伝子が両方みつかった。本株は、鉄以外にも水素やチオ硫酸をエネルギー源として、独立栄養的に増殖できることがわかった。これらの成果をまとめた論文を執筆し、国際誌へ投稿した。Thaumarchaeota門に属する新属新種の好熱性鉄還元アーキアについて、新科、新目、新鋼まで合わせて提唱した。好熱性鉄還元バクテリアの全ゲノム配列の決定し、論文で発表した。以上、上記の仮説検証に必要な知見を着実に積み重ねている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、昨年度対象としたモデル地から分離した鉄酸化菌3株・鉄還元菌4株の性状の詳細解析および全ゲノム解析、さらには鉄還元菌の代謝によって生成した酸化鉄の鉱物分析を行った。全ゲノム解析の結果、鉄酸化菌3株すべてから、鉄酸化における既知の鍵遺伝子MtoAおよびCyc2が見つかった。1株においては、鉄だけでなく、硫黄各種を酸化して独立栄養的に増殖できることも明らかにし、そのゲノムから硫黄酸化関連遺伝子が見つかっていることとも整合的であった。 鉄還元菌4株のうち2株からは、鉄還元における既知の鍵遺伝子OmcSやMtrABC遺伝子が見つかった。その一方で、残りの2株からは、全ゲノム配列を決定したにも関わらず、既知の鉄還元関連遺伝子がまったく見つからなかったため、新規の鉄還元メカニズムの存在が示唆された。鉄還元菌4株はすべて、固体鉄を還元できることが示されたが、それらの固体鉄において微生物的還元に伴う鉱物変化は観察されなかった。 さらには、今年度新たに鉄酸化菌1株を獲得できたため、上記と同様に性状解析、ゲノム解析、鉱物解析を行った。興味深いことに、本菌株からはCyc2遺伝子が見つかっておらず、同遺伝子は中性pH付近での鉄酸化機能に必須ではないことが示された。その一方で、MtoABおよびFoxY遺伝子が見つかっており、これらの遺伝子が本株の鉄酸化能に関与していると示唆される。また、MIZ03株は鉄還元能も有しており、MtrABC遺伝子も見つかっている。本株は中性pH付近で鉄酸化および鉄還元によって増殖できることが示された世界初の菌株である。さらには、本株は鉄以外にも水素やチオ硫酸をエネルギー源として、独立栄養的に増殖できることがわかった。 以上のように計画通りに着実に成果が上がっており、順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、本モデル地から今年度までに得られた分離株の生理性状およびゲノム解析を進め、同地における鉄酸化菌・鉄還元菌が駆動する鉄サイクルについて、論文化を目指す。得られた分離株のゲノムにコードされる鉄サイクル関連遺伝子を同定し、パブリックデータベース上の配列と照合することで、これらの分離株に近縁な鉄酸化菌・鉄還元菌がどのような環境中にどのくらいの量で分布しているのか等、生態学的考察を深める。さらにそれらの遺伝子の分子系統解析を行うことで、微生物の鉄酸化・鉄還元能についての進化的考察を深める。 新たなモデル地においてサンプリングを行い、より多くの新規鉄酸化・鉄還元菌の分離および環境メタゲノム解析を行う。これまで通りの分離法に加えて、より効率に分離できるように改良した分離法を試みる。これまでは目視による鉄鉱物の生成・変質で、鉄酸化・還元菌の増殖の有無を判断していたが、マルチウェルプレートに対応したフローサイトメーターや分光吸光光度計を用いて、微生物の増殖を効率的かつ高精度に検出できるようにする。環境メタゲノム解析においても、高精度かつ高速なバイオインフォマティクスツールが報告されているため、積極的に取り入れる。分離できた菌株の性状およびゲノム解析を進め、これまでに得られているモデル地のデータと比較することで、鉄サイクルを駆動する微生物の生態学的な共通点・相違点を見出し、地球表層環境における「酸化鉄ナノ鉱物の生成・溶解プロセスの実態」と「微生物-酸化鉄ナノ鉱物-多元素の相互作用」の理解を深める。
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