研究課題/領域番号 |
19H03311
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
古賀 章彦 京都大学, 霊長類研究所, 教授 (80192574)
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研究分担者 |
田辺 秀之 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 准教授 (50261178)
飯田 敦夫 京都大学, ウイルス・再生医科学研究所, 助教 (90437278)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 適応 / ゲノム / 反復配列 / 霊長類 / 視細胞 |
研究実績の概要 |
ヨザル科 (Aotidae) は十数種からなる。このうちの1種であるアザラヨザル (Aotus azarae) で、桿体細胞(微弱な光を捕らえる視細胞)に核内レンズ(核の中央部でのヘテロクロマチンの凝集)が備わっていることを、本研究課題の開始以前に、証明していた。本年度は、「別の種であるコロンビアヨザル (Aotus lemurinus) で、核内レンズの獲得が完了しているか」との問いを設定し、目的に合わせた実験と解析を行い、「完了している」との答えを得た。アザラヨザルとコロンビアヨザルは、ヨザル科の中では比較的遠い系統関係にあり、コロンビアヨザルを対象にすることは、目的のために的確である。 アザラヨザルでは、OwlRep 反復配列が核の中央部で不定形の塊となり、その表面の凹部を OwlAlp2 反復配列が埋めている。この2つで、全体として球に近い形となり、これが核内レンズとして作用する。コロンビアヨザルの網膜を固定したサンプルに対して、OwlRep と OwlAlp2 プローブとしてハイブリダイゼーションを行い、核内での空間分布を調べた。薄層の各断面でのシグナルの種類と強さを測定し、その情報の集積から3次元での分布を再構成するという手法である。その結果、アザラヨザルと同じ様式の分布となっていることが判明した。このとき、OwlAlp2 反復配列の分布も調べた。また、ロドプシンタンパクに対する抗体を用いた免疫染色も行なった。いずれも、核内レンズの存在の証明を補強することが目的である。この2要素に関しても、アザラヨザルと同じとの結果を得て、証明の補強となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目に設定した問いに対して、1年目の終了の時点で答えを得た。進捗は順調であるといえる。 この実験で必要となるサンプルは、目の一部をなす網膜である。核酸とタンパクの空間分布を調べるため、取得した組織を新鮮なうちに固定することは、必須である。このため、個体の自然死が起こった機会に遭遇するか、または安楽殺を含む動物実験が、必要となる。しかし、対象とする生物種は、希少な霊長類であり、どちらにも困難が伴う。当初、別の目的で6年前に動物実験で得たサンプルが、共同研究者より入手できる見込みが立っていたため、これを使う計画を立てていた。ここで、6年間という保管期間が不安要因であった。反復配列などの崩壊が、この間に崩壊している可能性が、あるためである。 5月に実験を行ってみたところ、崩壊は進んでいることがわかった。OwlAlp2 とロドプシンでは弱いシグナルが出るものの、他の2つはシグナルが得られなかった。必要と思われる改良を加えながら、実験を繰り返したが、6月から12月にかけて行った実験では、改善はみられなかった。そしてさらに工夫を施した実験で、3月に、4要素すべてでシグナルの検出となった。 サンプルの劣化に起因する困難は、当初から予想していたため、この目標の達成には1年をあてていた。そして上記のように、改良と試行を繰り返すことで、目標を達成した。したがって年度全体として、進捗は順調であるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
1年目に、コロンビアヨザルで核内レンズの獲得が完了していることを、ハイブリダイゼーション実験で証明した。この証明は、研究課題全体の観点からは、核内レンズの獲得の完了の時期を推定することに、目的があった。アザラヨザルとコロンビアヨザルは約500万年前に分岐した。2種ともに核内レンズがみられるということは、核内レンズの獲得は2種の共通祖先で完了していたことを意味する。すなわち、完了の時期は約500万年前より前である。昼行性であるマーモセット科は、核内レンズをもたない。そしてマーモセット科とヨザル科は、約2000万年前に分岐した。したがって、獲得の開始は約20000万年前より後である。これから、獲得にかかった時間は、20000万年前から500万年前の間ということになる。 このように、期間の推定に至ったのではあるが、これは最最大推定値である。これより短い期間で進行した可能性は、十分にある。2年目以降は、この範囲を狭めることを目指す。そのための方策は、これまではヨザルのゲノム全体の情報を用いていたところ、核内レンズに直接関係する部分の情報に絞ることである。 また、新たな目標も設定する。核内レンズの形成の分子機構に着目し、ヨザルではどの遺伝子がどのように変化したために獲得がなされたかを、追求する。このために、バイオインフォマティクスの専門家に、協力を求める。
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