研究課題/領域番号 |
19H03311
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
古賀 章彦 京都大学, 霊長類研究所, 教授 (80192574)
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研究分担者 |
田辺 秀之 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 准教授 (50261178)
飯田 敦夫 名古屋大学, 生命農学研究科, 助教 (90437278)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 適応 / ゲノム / 反復配列 / 霊長類 / 視細胞 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、ヨザル(夜猿)での視細胞内微小レンズの獲得に関して、つぎの3つの問いを設定した。[1] ヨザルでどのような条件がそろったためにこの適応が実現したか。[2] この適応はどのくらいの期間で達成されたか。[3] 同様の適応が、霊長類全般(ヒトを含め)で起こり得るか。 1年目は主に [2] の問いに取り組み、最大 15 My(My =100万年)との結果を得ていた。獲得の開始が 20 My 年より後、完了が 5 My より前との推測から、これを導いた。2年目となる本年度は、それぞれの推測値、とくに完了の時期に関して、より強い根拠を与えるべく、厳密な実験を行った。コロンビアヨザル(Aotus lemurinus)に視細胞内微小レンズがあることの証明が、目標である。網膜のサンプルに対する免疫染色および核酸ハイブリダイゼーションを実施し、確実な証明といえる結果を得た。これを論文にして発表した。 [1] に加えて本年度は、[2] を開始した。視細胞内微小レンズは、ヘテロクロマチンが核の中央部に凝集することで、形成される。まず形成の機構の根幹部に関して、2つの可能性を考えた。[1a] 中央部に積極的に凝集を起こす機構をヨザルは獲得した。[1b] 周縁部につなぎ留める機構をヨザルは停止した。文献を精査し、矛盾のない説明は [1b] の方であると判断した。続いてその前提に立ち、関与する要因を具体的に追求した。ラミンB受容体遺伝子が、有力な候補となった。この遺伝子から作られるタンパクは、ヘテロクロマチンのメチル化部位認識して、核膜の内側につなぎ留める役を担う。この機能を停止または変更したことが想定できる。そしてヘテロクロマチンでのメチル化部位の消失や変化もまた、有力な候補となった。以上のように、要因の具体的な候補の選定に、本年度は至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画で設定した3つの問いのうち [2] に関して、1年目に推測として得ていた値を、2年目に厳密な実験を行って確認した。この結果を論文にまとめ、学術誌の審査に出した。審査では高い評価を得て、短期間で受理となった。 [1] の問いへの取り組みを2年目に始めたのであるが、要因の具体的な候補の選定を終えることができた。得られた候補は、これまでの分子生物学また進化生物学の多数の文献の記載に、無理なく適合する。有力な候補といえる。そしてこの候補を得て、ヨザルでの変化に関して仮説を立てた。さらに、仮説に基づく実験の具体的な計画も完了した。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる3年目に、[1] の問いに答えるために2年目に計画した実験および調査を、実施する。中心となる作業は2種類ある。1つは、ヨザルの網膜のサンプルを用いた免疫染色の実験である。網膜のサンプルは、以前作製したものの余剰分を少数保管してあり、これを利用する。ただし、入手する機会のきわめて限られた貴重なサンプルであるため、無駄にはできない。2年目を計画で終えたのは、このためである。3年目の当初は、計画をさらに練る。その後、実験系に検出力があることを他のサンプルを用いて確認する。しかる後に、網膜のサンブルでの実験を実施する。もう1つの手法は、バイオインフォマティクスでのゲノム情報の解析である。こちらは、様々な可能性を想定して詳しい解析を繰り返し行い、実験との相互補完を目指す。
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