研究課題
中枢神経系における情報伝達は、シナプスにおいて神経伝達物質(興奮性ではグルタミン酸)によって媒介される。グルタミン酸は、シナプス前終末に活動電位が到達するとカルシウムチャネルからカルシウムが流入することで放出されるが、このような直接的な放出機構だけでなく、シナプス前終末には小胞体などのカルシウムストアがあり、ここから放出されるカルシウムによっても修飾を受けると想定されているが、その実体についてはほとんど明らかになっていない。また、シナプス後部では、やはりグルタミン酸受容体のNMDA受容体を介して流入するカルシウムにより長期増強などのシナプス可塑性が誘導されるが、ここでも細胞内カルシウムストアの役割についての報告は少ない。これらの点を検討するために、マウスの海馬スライス標本を用いて、電気生理学的解析を進めた。2019年度は、シナプス前終末およびシナプス後細胞特異的な遺伝子改変マウスを用いて、細胞内カルシウムストアからのカルシウム放出を調節すると考えられる分子Xの役割を、電気生理学の技術を用いて検討した。分子Xのシナプス前終末特異的ノックアウトマウスでは、5Hz刺激により誘導される短期的なシナプス可塑性が増大し、分子Xが神経伝達物質の放出を制御していることが明らかとなった。また、シナプス後細胞特異的に分子Xをノックアウトしたマウスでは、100Hz1秒の高頻度刺激により誘導される長期増強が減弱する傾向を示すことが明らかになったので、今後はこの点についても検討を進める。
2: おおむね順調に進展している
分子Xのシナプス前終末およびシナプス後細胞における機能がある程度解明できたため、所期の目的の一部が達成できた。今後の実験を進めるための予備的な実験も進めることができたため、研究はおおむね順調に進展していると判断した。
2019年度は、シナプス前およびシナプス後の機能解析を進めたが、予備実験により分子Xのノックアウトマウスでは、海馬CA1領域の長期増強が減弱している可能性を見出しているため、2020年度は、その再現性を確認するとともに、それが確定できた場合には、その原因を詳細に解明するための実験を進める。
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