研究課題/領域番号 |
19H03323
|
研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
深澤 有吾 福井大学, 学術研究院医学系部門, 教授 (60343745)
|
研究分担者 |
松井 広 東北大学, 生命科学研究科, 教授 (20435530)
加藤 輝 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター、アストロバイオロジーセンター、生命創成探究, 生命創成探究センター, 特任助教 (30391915)
黒田 一樹 福井大学, 学術研究院医学系部門, 准教授 (60557966)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | シナプス結合 / 構造ー機能相関 / 超微形態 / 三次元再構築 |
研究実績の概要 |
シナプス伝達とその可塑性は学習・記憶の基盤現象であり、その異常が種々の精神疾患の原因であると指摘する研究結果もあり、シナプス伝達の分子生物学的理解を深め、疾患発症との因果関係を明らかにする必要性が高まっている。シナプス伝達の場であるシナプス結合は、2つの神経細胞の接着構造であり、情報伝達の機能的特性は、シナプス前後で起こる複数の素過程の総和として決定される。しかし、単一シナプスレベルのシナプス前後の構造や機能を同時に調べる手法がこれまで無く、シナプス前後の協調の有無やその調節を支えるメカニズムについては不明である。本研究では、申請者が独自に開発した一つのシナプス結合の前後構造全体を定量的に構造解析できる観察法を応用し、シナプス前後の協調関係を支える分子を同定すると共に、協調関係の機能的意義を明らかにすることを目的とし、①シナプス前後構造の協調的構築を担う分子を同定、②同定した分子のシナプス内外での発現様式の解明、③各シナプス微細形態の機能との対応関係の解明、④シナプス構造異常と精神神経疾患発症との関連性を解明。(担当:深澤)、⑤連続電子顕微鏡画像中の微細構造を自動で同定する画像解析手法の開発について計画し、令和2年度は①②③④⑤の全てについて、実験を進めた。その結果、令和元年度に見出したシナプス前後の協調的構築に異常を呈する遺伝子改変マウス以外に4種の遺伝子改変マウスのシナプス構造について解析し、これら遺伝子が協調的構築に関与しないことを明らかにした。また、N-cadherin分子のシナプス内局在を解析できる実験系の構築にも成功した。さらに、自閉症とシナプス構築異常との関係を検討できる新たな遺伝子改変マウスの導入も行うなど計画どおりの成果が得られた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
実験計画に沿った解析がほぼ実施できたが、一部、解析途中の計画が残ったため。 ①シナプス前後構造の協調的構築を担う分子の同定(担当:深澤) シナプス結合の形成と維持に関与する遺伝子(Neuroligin-3, N-cadherin)を欠損させたマウスを入手し、そのシナプス結合構造を解析し、Neuroligin-3欠損がシナプス前後の協調的構築に必須では無いことを見出した。しかし、N-cadherin遺伝子改変マウスについては、名古屋大学での顕微鏡観察が行えず、保留状態となったため。令和3年度中には実施する見込みである。 ②同定した分子のシナプス内外での発現様式の解明(担当:黒田) 実験①で見出したシナプス前後の相関形成に関与する遺伝子産物のシナプス内分布を、凍結割断レプリカ標識法(SDS-digested Freeze-fracture Replica Labeling: SDS-FRL法)で明らかにするため、免疫タグを標的分子にノックインして免疫標識する技術の開発を実施し、複数系統の遺伝子編集マウスを作製し、免疫タグの検出に成功した。 ③各シナプス微細形態の機能との対応関係の解明(担当:松井) 実験①で見出したシナプス前後の相関形成に異常をきたすマウスのシナプス前後の機能的協調性を検討する実験手法の開発について、複数回にわたる実験を実施したが、単一シナプスレベルで構造特徴と機能的特徴の対応関係を明らかにするまでには至っていない。 ④連続電子顕微鏡画像中の微細構造を自動で同定する画像解析手法の開発(担当:加藤) 連続電子顕微鏡画像中の目的構造をAIを用いた深層学習により自動で同定するため、令和元年度には機会学習に適した画像解像度とサイズ及び処理枚数などを決定した。そこで令和2年度は連続電子顕微鏡画像中の各構造ドメインを実験者が判定した教師データを作成した。
|
今後の研究の推進方策 |
①シナプス前後構造の協調的構築を担う分子を同定(担当:深澤) シナプス間接着分子(Neuroligin-1、N-cadherin)の点突然変異マウスや欠損マウスのシナプス構造解析を進め、シナプス前後の協調的構築に関与する分子群を同定する。 ②同定した分子のシナプス内外での発現様式を解明(担当:黒田) SDS-FRL法を用いてneuroligin-1と-3、N-cadherin及びAMPA型グルタミン酸受容体の正常マウスでのシナプス内分布を可視化し、発現様式とシナプス形態(面積や形)との関係性を空間配置と量的な側面から明らかにする。 ③各シナプス微細形態の機能との対応関係を解明(担当:松井) 単一シナプスレベルで構造特徴と機能的特徴の対応関係を検討できる実験系の確立を引続き目指して計画と実験を行う。また、シナプス前後の協調的な機能連関を生理学的に明らかにする実験手法を開発する。 ④シナプス構造異常と精神神経疾患発症との関連性を解明(担当:深澤・松井) 本年度は昨年度に開始した自閉症モデルマウスとして報告されたneuroligin-1の点突然変異マウスのシナプス前後構造の協調的構築破綻の解析を終了させ、自閉症モデルマウスに共通の表現型であるかを確認する。 ⑤連続電子顕微鏡画像中の微細構造を自動で同定する画像解析手法を開発(担当:加藤) これまでに開発した機会学習を利用して画像解析を行う解析基盤を実際の試験画像に適用し、その有効性を評価すると共に、上記①④の解析の効率化を図る。
|