神経伝達物質は、学習や記憶、情動などの脳高次機能の調節に必須の役割を果たす。伝達物質放出は伝達物質放出の位置とタイミングを決定する構造体であるアクティブゾーンにより調節されるが、アクティブゾーンがどうようにシナプス伝達の強度とその可塑性をコントロールし、最終的に個体レベルでどのように表現されるのか、その本質は未だ明らかになっていない。本研究では、アクティブゾーン構成の核心因子であるCAST/ELKSの液―液相分離の変容によるアクティブゾーンの分子構造基盤と神経伝達物質放出の変動に着目した。先ず生細胞におけるCAST/ELKSの液―液相分離を解析した結果、CAST/ELKSの発現量に比例して、生細胞における液滴のサイズ及び形成率が増加した。興味深いことに、Rab3小胞を動員する機能を持つRIM1の場合、単独の発現では細胞質液滴の形成は見られず、CAST/ELKSと共発現する場合のみ、著しい液滴形成を観察することができた。この結果はアクティブゾーンの複合体形成において液ー液相分離が重要な機能を果たす可能性を示唆している。アクティブゾーンの形成および機能におけるCAST/ELKSの液―液相分離の役割を解明するため、CAST/ELKSも欠失変異体を作製した。CAST/ELKSは全長の63%がcoiled coilドメインであり、N末端とC末端に天然変性領域が集中している。欠失領域による液滴形成を定量的に評価した結果、CASTはN末端とC末端領域が液滴形成において重要であった。一方、ELKSはN末端を欠失しただけで液滴形成が抑制された。さらに、ELKSのN末端欠失によりELKS依存的RIM1の液滴形成は消失した。今後、液滴形成不全変異体を用いアクティブゾーンの形成や小胞分泌に及ぼす効果を解析する予定である。
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