研究課題/領域番号 |
19H03325
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山本 亘彦 大阪大学, 生命機能研究科, 教授 (00191429)
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研究分担者 |
菅生 紀之 大阪大学, 生命機能研究科, 特任准教授(常勤) (20372625)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ヒト / 大脳皮質 / 神経活動依存性 / 遺伝子発現 / 転写調節 / CREB |
研究実績の概要 |
脳の発達過程では、あらかじめ決められた遺伝プログラムに加えて、感覚や経験・学習によって引き起こされる神経回路の再編が重要である。このプロセスに異常が生じることによって、深刻な発達障害や精神神経疾患に繋がると考えられている。神経回路再編には、ニューロンの電気的活動(神経活動)によって発現量が変動する遺伝子の転写調節が必要不可欠であり、中でも転写調節因子cAMP response element binding protein (CREB) は記憶や学習に重要な役割を果たすことが知られている。CREBと複合体を形成する共因子CREB binding protein (CBP)は、転写調節因子をDNAに結合しやすくするヒストンアセチル化酵素として作用し、さらに精神神経疾患であるRubinstein-Taybi症候群の原因遺伝子としても知られている。これまで、これらの生化学的なメカニズムは明らかにされているが、核内での時空間的な分子レベルの相互作用はほとんど明らかになっていない。また、これらの分子機構は従来齧歯類を用いて研究されてきたが、高度に進化したヒトにおいても同様な機構が働くのか、あるいはヒトに特徴的なメカニズムがあるのかについても不明である。この問題に取組むために、ヒトES細胞由来大脳皮質ニューロンの小規模培養法を確立し、CREBとCBPの動態を1分子イメージング法により解析した。その結果、神経活動に応答して核内の特定の場所でCREB-DNA結合が何度も繰り返されることを見出した。さらに、アセチル化ドメイン欠損のCBP変異体を発現させた神経細胞では、この繰り返し結合が阻害されることもわかった。以上より、特定の核内部位でヒストンアセチル化が神経活動依存的に促進され、転写調節因子が繰り返し結合することによって、遺伝子発現が調節される機構があることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
神経細胞の発火活動パターンによる遺伝子発現については、特定の周波数の発火活動によって神経栄養因子のプロモーター活性(CREBが関与する)が上昇することを突き止め、今年度論文として発表した。さらに、1分子イメージング法による神経活動依存的な遺伝子発現機構の研究においても上述のように、先進的な結果を得られていることから、順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
転写調節因子CREBの動態に加えて、そのコファクターとの相互作用を解析することにより、核内での構造的要因が明らかになることが期待できる。これらの成果を早期に論文にまとめることが重要であり、それに向けて学会での発表や当該分野の研究者との意見交換を行うことが必要であると考えている。
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