研究課題
認知活動にともなうシナプス活動に応答して一過的な発現上昇を示す神経可塑性制御遺伝子Arcは記憶をはじめとする大脳認知機能の維持に本質的な役割を担っており、Arc依存的な分子機構破綻は認知症や精神疾患との関連が示唆されている。これまで申請者らは遺伝子産物であるArcタンパク質の機能解析を進めてきた。その結果、Arcタンパク質は活性の低いシナプスに選択的に集積して神経伝達効率の調節を行うことを見出し、新しい概念”逆シナプスタグ機構”を提唱してきた。しかしながら、Arcがどのように個々のシナプスや神経細胞の性質を変化させ、その結果、どのように認知機能を調節するのか?という遺伝子と認知・行動の間をつなぐシナプスレベル、細胞レベルの本質的なメカニズムに関してはいまだ多くが不明である。本研究はArcによるシナプス制御機構をあきらかにすることにより、学習や経験による神経細胞回路再編成を介した認知機能の調節メカニズムを明らかにすることを目的とする。本年度は、培養神経細胞を用いてAMPA型グルタミン酸受容体の細胞膜表面上での動態解析を行いArcタンパク質の有無による変化を調べた。その結果、Arcの逆シナプスタグ機構を良く説明する結果を得た。また、このシナプス制御機構の破綻がどのように認知機能に影響するかを調べるためバーンズ式迷路を用いた空間参照長期記憶を調べた。その結果、Arc欠損マウスにおいて1ヶ月以上持続する記憶(遠隔記憶)に特異的な障害がみられた。また、Arc欠損が実行機能へ及ぼす影響を調べるために視覚性課題装置を導入しマウス用視覚弁別課題を構築した。
2: おおむね順調に進展している
実験計画の各項目について順調に結果が得られている。
今後は得られた結果に基づき以下の計画で研究を進める。Arcの逆シナプスタグによるシナプス制御機構の解明:培養神経細胞を用いたグルタミン酸受容体の動態解析系をさらに改良し,前年度に得られた結果の再現性を確かめる。Arcによる記憶の長期化遷移プロセスの調節機構の解明:Arc欠損マウスの遠隔記憶障害の責任脳部位を探すため、Arcレポーターマウスと欠損マウスの二重遺伝子改変マウスを作成し、遠隔記憶想起時の脳活性化の違いを野生型と比較する。Arcによる実行機能調節機構の解明:昨年開発した視覚弁別課題を用いて、Arc欠損マウスにおける逆転学習障害の有無を検討する。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 3件)
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