触覚受容の理解を目指し、触覚受容に必要な分子をゼブラフィッシュ仔魚を用いた変異体スクリーニングで探索し、その機能を明らかにする研究を進めた。具体的にはゼブラフィッシュ仔魚に機械刺激を与えて、その際の逃避行動で異常のあるものを変異体として同定し、解析を進めた。機械刺激に応答しないものには触覚受容に異常のあるものだけでなく、中枢神経系や筋に異常のあるものも含まれるが、機械刺激以外の感覚刺激として音刺激や水流刺激を与えて逃避行動を駆動できるかを調べることで、触覚受容に異常のあるものを効率的に単離した。その中でRNAポリメラーゼの非必須サブユニットとされるpolr2dの変異体を得て、解析を進めると、polr2d変異体は24時間ステージで見られるはずの機械刺激応答が欠如していた。さらに全体的な胚発生の遅延も見られ、神経系組織で細胞死が亢進していることもわかった。さまざまな遺伝子の発現を調べたところ、ハウスキーピング遺伝子に加え、母系由来遺伝子や接合型発現遺伝子においても発現の異常が見られることがわかった。これらのことからpolr2dの神経系における重要性が明らかになり、脊椎動物において同遺伝子の機能を明らかにした初めての研究となった。また、触覚応答に関わる分子を探索する目的でゼブラフィッシュ仔魚にさまざまな化合物を作用させて機械刺激を与え、逃避行動を観察したところ、抗炎症薬として知られるニフルム酸を作用させると触刺激応答に異常が生じることがわかった。その異常はグリシン受容体の阻害剤であるストリキニーネを作用させた際の異常行動に似ていたことから、グリシン受容体がニフルム酸の標的になる可能性を検討した。カエルの卵母細胞にグリシン受容体を発現させてグリシンによる受容体開口がニフルム酸によってどう影響を受けるかを調べたところ、ニフルム酸の濃度依存的にグリシン受容体が阻害されることがわかった。
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