ゼブラフィッシュは受精から1日(1日齢)で体の基本構造が形成され、感覚ニューロンから中枢ニューロンを介して筋に至るまでの運動神経回路が機能し始めるので、変異原ENUで処理したゼブラフィッシュの3世代目の個体を1個体ずつピンセットでつついて触刺激応答を顕微鏡下で観察することで、触覚受容に異常のある変異体を単離することが可能で、変異体の責任遺伝子をマッピングやクローニングで同定することで、触覚受容に必要な遺伝子を明らかにすることができる。本研究では触覚受容の理解を目指し、ゼブラフィッシュ変異体を足がかりに触覚受容に必要な分子を探索して機能解明を進めた。新たに数系統で責任遺伝子を探索し、触覚受容に多くの分子が必要であることが示唆される結果が得られた。また、前年度に遂行した転写因子NFIAに関連した続きの研究を遂行し、NFIAタンパク質の中でも脊椎動物で高度に保存された395番目のスレオニン残基に注目し、このアミノ酸がメチオニンに置換されると、NFIAの機能が損なわれることを、アセチルチューブリン抗体を用いた後脳交連神経線維の免疫染色を指標としたレスキュー実験(NFIA mRNAをNFIAホモ変異体にインジェクションで導入してNFIAタンパク質を発現させ、後脳交連神経線維の形成が回復するかしないかを観察する)で明らかにした。当該のスレオニンがメチオニンに置き換わるミスセンス変異をもつヒトで知的障害を発症する患者が存在しており、病態の原因がNFIAのミスセンス変異により生じるNFIAの機能喪失である可能性が示唆された。
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