哺乳類脳神経系における興奮性シナプス伝達は、活動依存的にシナプス小胞から神経伝達物質が放出されることによって喚起される。本研究課題では、グルタミン酸をシナプス小胞に濃縮するタンパク質Vesicular glutamate transporter (VGLUT)に焦点を当て、VGLUTの発現量変化のシナプス伝達に与える影響や、VGLUTタンパク質の活動依存的な挙動を制御する分子機構は解明し、興奮性シナプス伝達の人工操作への道を拓くことを目的としている。今年度の主な研究成果を以下に列挙する。 (1)VGLUTの活動依存的回収におけるクラスリン・アダプタータンパク質2(AP-2)の役割:哺乳類など恒温動物にとっての生理的な温度(35度程度)では、神経活動に伴って起こるエンドサイトーシスにクラスリンが不要であることがわかってきた。一方、VGLUT1の回収にはクラスリンは不要であるが、AP-2との直接結合が必要であることがわかった。 (2)シナプス小胞は形態的には均一であるが、機能的には多様性があると言われている。シナプス小胞のエキソサイトーシスに必須なタンパク質である3種類のSNAREタンパク質以外に、量は少ないものの多くのSNAREタンパク質が小胞膜上に存在することを踏まえ、7種類のSNAREタンパク質に蛍光プローブを融合させ、刺激依存的な動態をライブイメージングによって観察した。その結果、Syntaxin 7を持つ小胞は高頻度刺激が持続した時にのみ神経伝達に利用される一部の小胞プールを形成していることがわかった。この小胞はVGLUT1を含むことから、Syntaxin 7を操作することにより、高頻度刺激時のグルタミン酸放出のみ制御できる可能性が考えられた。
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