研究課題/領域番号 |
19H03332
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
上口 裕之 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, 副センター長 (10233933)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 成長円錐 / 軸索ガイダンス / ホスファチジン酸 |
研究実績の概要 |
膜小胞の脂質代謝酵素が形質膜脂質へ及ぼす影響の可視化解析 ニワトリ胚の脊髄後根神経節神経細胞を培養し、培養液中に形成した誘引性ガイダンス分子(神経成長因子)の微小濃度勾配によって旋回誘導されつつある軸索先端部(成長円錐)を用いた実験を行った。VAMP2陽性膜小胞が先導端形質膜に近接する前後で、成長円錐に発現させた蛍光タンパク質付加ホスファチジン酸結合ペプチドをエバネッセント顕微鏡で観察し、エバネッセント場での蛍光シグナルを定量した。この方法で形質膜内葉のホスファチジン酸を追跡したところ、VAMP2陽性膜小胞が形質膜に近接した直後に、近接部位に限局した一時的なホスファチジン酸量の増加を検出することに成功した。この実験を継続して、膜小胞輸送とホスファチジン酸量の時空間的な相関関係を定量して統計学的解析を進めていく。 ② 形質膜脂質代謝が軸索ダイナミクスを制御する分子メカニズムの解明 VAMP2陽性膜小胞による形質膜脂質代謝からエキソサイトーシスに至る分子メカニズムの解明を目指した研究を行った。膜融合を担うSNAREタンパク質のうち、標的膜に存在するシンタキシン1Aは酸性リン脂質結合ドメインを有するため、ホスファチジン酸量の増加に応答するSNAREタンパク質としてシンタキシン1Aに着目した。酸性リン脂質結合ドメインに変異を有するシンタキシン1Aは、神経成長因子による軸索誘引応答を媒介できないこと、すなわちシンタキシン1Aとホスファチジン酸との結合がエキソサイトーシスに重要であることを示唆するデータが得られた。引き続きこの実験を継続して、シンタキシン1Aの酸性リン脂質結合ドメインの役割を明らかにしていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度の交付申請書に記載した研究課題のうち、シンタキシン1Aの集積とエキソサイトーシスとの関連性を可視化する実験データはまだ得られていないが、代わりにシンタキシン1Aの酸性リン脂質結合ドメインの機能解析を進めており、研究方法は異なるものの当初の目的をおおむね達成した。また、その他の研究課題については全て計画通りに完了しており、全体的には順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
①膜小胞による形質膜脂質代謝の時空間的解析と因果関係の解明 昨年度に引き続き、誘引性ガイダンス分子(神経成長因子)の微小濃度勾配によって旋回誘導されつつある成長円錐を用いた実験を継続する。成長円錐に発現させた蛍光タンパク質付加ホスファチジン酸結合ペプチドをエバネッセント顕微鏡で観察し、VAMP2陽性細胞内膜小胞が先導端形質膜に接近する前後での形質膜内葉におけるホスファチジン酸を可視化定量する。具体的には、VAMP2膜小胞の形質膜への接近とホスファチジン酸合成との時間的な関係、ならびにVAMP2膜小胞と形質膜の接近部位を起点としたとホスファチジン酸合成の空間的広がりを測定する。以上により、膜小胞輸送とホスファチジン酸量の時空間的な相関関係を統計学的に検定し、ホスホリパーゼD阻害薬を用いた実験により両者の因果関係も明らかにする。 ②形質膜脂質代謝が軸索ダイナミクスを制御する分子メカニズムの解明 VAMP2陽性膜小胞が形質膜脂質を代謝してエキソサイトーシスを引き起こす仕組みを分子レベルで明らかにする。標的膜SNAREタンパク質であるシンタキシン1Aの酸性リン脂質結合ドメインに機能喪失変異を導入し、この酸性リン脂質結合ドメインが誘引性ガイダンス分子(神経成長因子)による軸索誘導に必要であるか否かを統計学的に検定する。続いて、VAMP2陽性膜小胞の接近によりホスファチジン酸量が増加した形質膜領域へのシンタキシン1Aの集積を検証する目的で、野生型あるいは酸性リン脂質結合ドメインに変異を導入したシンタキシン1Aの動態をエバネッセント顕微鏡で定量的に解析する。以上により、膜小胞が惹起する形質膜脂質代謝がエキソサイトーシスを引き起こす分子機構を明らかにし、軸索ガイダンスを駆動する新規脂質シグナルを同定する。
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