① 膜小胞による形質膜脂質代謝の時空間的解析と因果関係の解明: ニワトリ胚の脊髄後根神経節神経細胞を培養し、培養液中に形成した誘引性ガイダンス分子(神経成長因子)の微小濃度勾配によって旋回誘導されつつある軸索先端部(成長円錐)を用いた実験を行った。成長円錐に発現させた蛍光タンパク質付加ホスファチジン酸結合ペプチドをエバネッセント顕微鏡で観察し、エバネッセント場における蛍光強度変化を追跡することでVAMP2陽性細胞内膜小胞が先導端形質膜に接近する前後での形質膜内葉におけるホスファチジン酸を可視化定量した。以上の方法により、膜小胞輸送とホスファチジン酸量の時空間的な相関関係を明らかにし、さらにホスホリパーゼD阻害薬を用いた実験により両者の因果関係を証明した。 ② 形質膜脂質代謝が軸索ダイナミクスを制御する分子メカニズムの解明: VAMP2陽性膜小胞が形質膜脂質を代謝してエキソサイトーシスを引き起こす仕組みを探索した。膜融合を担うSNAREタンパク質のうち、標的膜に存在するシンタキシン1Aは酸性リン脂質結合ドメインを有する。このシンタキシン1Aの酸性リン脂質結合ドメインが神経成長因子による軸索誘引に必要であることを見出した。続いて、VAMP2陽性膜小胞の接近によりホスファチジン酸量が増加した形質膜領域へシンタキシン1Aが集積することを示し、この集積に酸性リン脂質結合ドメインが必要であることを明らかにした。以上のように、膜小胞が惹起する形質膜脂質代謝がエキソサイトーシスを引き起こす分子機構を明らかにし、軸索ガイダンスを駆動する新規脂質シグナルを同定した。
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