研究課題
電子顕微鏡による大規模電顕画像3次元再構築処理法と光学顕微鏡観察法を相関させ、マウスの運動学習に伴う大脳皮質第一次運動野の神経回路のダイナミックな変化を解析する。運動学習に伴い形成される新規のシナプス入力の由来が大脳皮質錐体細胞であるか視床の神経細胞であるかを明らかにする。大脳皮質錐体路細胞にGFPが発現する遺伝子改変マウス(Thy1-M系統)を用いて、狭いスリット穴越しに小さい餌(粟)を前肢でつかみ取る課題を、毎日20分間10日間にわたり学習させた。M1の前肢領上に頭蓋窓を作製し、トレーニング期間中、毎日、同一のPT細胞樹状突起セグメント(10-20箇所)を2光子励起顕微鏡下で生体観察し、棘突起の新生と消失を観察した。種掴み成功率からマウス個体ごとの学習期を割り出し、学習前、習得期(4日目程度)、完成期(10日目以降)の動物を灌流固定し、M1前肢領域の脳切片を作成する。VGluT1(vesicular glutamate transporter type 1; 錐体細胞の神経終末マーカー)、VGluT2(視床-皮質神経終末マーカー)、Homer(興奮性シナプス後膜マーカー)、GFP(錐体路細胞蛍光マーカー)に対する蛍光4重染色を行い、共焦点レーザー顕微鏡で観察した。生体観察した棘突起上で、Homerに接触するシナプス前終末マーカーを同定した結果、習得期には、新生棘突起にシナプスを形成する神経終末の多くが、大脳皮質2次運動野(M2)由来であること、完成期にはそれが消失するが、視床由来の神経終末の入力を受けている棘突起は残存し、大きくなっていることを見出した。さらに、化学遺伝学的手法で、その2つの興奮性入力経路の活動を休止させて解析した結果、M1投射M2神経細胞が学習の上達に深く関与していること、M1投射視床神経細胞がその熟練運動の維持を担っていることを認めるに至った。
2: おおむね順調に進展している
本研究の当初の目的である、運動学習の各段階において大脳皮質一次運動野の錐体路細胞が受けるシナプス入力の変化を観察し、その由来が変化することを見いだすことができた。運動学習成立の機序を明らかにしたことから、当初の目的は達成したと考えている。今後は、生体脳観察法、運動学習課題、化学遺伝学的手法、トレーサー法、光顕-電顕相関法などを組み合わせて、その詳細な成立過程の検討に進む。
熟練運動学習時のM1皮質の棘突起動態に着目し、より詳細な解析を、生体脳観察法とpost-hoc免疫組織化学法、光顕-電顕相関法などを組み合わせて実施する。
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Nature Methods
巻: 18 ページ: 406-416
10.1038/s41592-021-01080-z
PLoS Comput Biol
巻: 17 ページ: e1009364
10.1371/journal.pcbi.1009364