研究課題/領域番号 |
19H03337
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
虫明 元 東北大学, 医学系研究科, 教授 (80219849)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | マルチタスク / 前頭葉 / 多点計測 |
研究実績の概要 |
当研究課題では 脳が柔軟に複数の課題に対処できるための前頭葉と関連分野の働きを解明することである。複数の視覚刺激と運動を結びつけて学習し、行動中のサルの前頭前野、内側、外側、運動野内側と外側から多点計測を行い比較検討した。 前頭前野の脳波の解析から、腹側と背側がどのような側面で区別されるかを検討した。その結果、腹側ではサンプル期間の変形形状が遅延期間のシータ波とデルタ波に強く影響し、背側では腕の操作割り当てがガンマ成分に影響することがわかった。これらの結果は、領域および周波数選択的なLFP変調が、前頭前野において異なる行動関連情報を動的に動員することに関与していることを示唆した。 また背側運動野と前補足運動野の比較では両領域のニューロンの活動が反応的符号化から予測的符号化に移行することが示された。特に、記憶誘導型試行では、PMd細胞の活動は、最初の動き(1M)に関係なく、一般に報酬につながるシーケンスの2番目の動き(2M)を優先的に表現していた。一方、pre-SMAの細胞は、スイッチングまたは非スイッチング動作を順番に協調させることで、特定の動作順序を符号化していた。 また後部内側前頭前野と前補足運動野との比較においては、後部内側前頭前野は戦術、視空間情報、行動、またはそれらの組み合わせに対して選択的な活動を示した。驚くべきことに、戦術選択的なニューロンの82%は、特定のタスクで選択的な活動を示し、両方では示さなかった。このようなタスクに特化した神経細胞表現は、行動選択性ニューロンの72%に現れた。また、視空間情報を表現するニューロンの95%は、あるタスクにおいてのみそのような活動を示し、ただし前補足運動野では 選択性はそれほど高くなく機能的示唆が判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
複数課題における、前頭葉の内外の比較、前後比較などを通して、様々な機能差が明らか位になりつつ有る。前頭前野内側、外側、運動前野、前補足運動野など、広範な領域に関して、予想以上の所見が得られつつある。複数の振動系と課題、領域との選択的な関連性、更には単一細胞レベルでの機能的差異に関しても、所見が集まりつつ有る。動的な情報表現や振動表現には、脳の情報処理の原理として、課題特有の拘束条件を如何に有限の細胞要素の組み合わせで表現するかという符号化の原理に関して示唆的な所見と言える。今後神経の符号化原理を解明する基盤とも言える成果として論文として、まとめられたので計画以上の進展と判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
今年の予備的な成果を、きちんと複数のサルで検証していく必要がある。サルは主課題に戻るときにエラーが多いことが本当にコンフリクトと解釈して妥当か、 サルを用いた行動解析、電気生理と 関連してげっ歯類での抑制細胞に関しての知見を今後統合していくことを計画している。 マルチタスクと前頭葉の複数の領域の関係に関して、課題間のコンフリクトが起こりやすいのか、この関係を系統的に解析することも検討している。複数の課題の行動が記憶のレベルで拮抗するということが、どのように脳の活動として反映されるのかを、ベータ波、シータ波、ガンマ波などの振動に関連して解明を進めることと、これらの振動の背景にある神経機構を調べていく。 また抑制系の役割は、光遺伝学的な操作方法をげっ歯類で確立しつつ、霊長類での実験に役立てるようになったが、十分ではない。今後も光操作の手法を霊長類で応用していくことを検討する。割り込みに関してはシータ波が前頭葉で重要な役割があることが判明してきており、大脳皮質と海馬の関連性が示唆されて、ネットワークとしては、どのような領域がこの振動を共有しているのか解明することが大切となる。複数領域の脳振動の同期性に着目することが手がかりを与えてくれる可能性があるので、この点を解明する予定である。
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