アストロサイトの代謝回路の変化は、即、神経回路の動作を左右し、学習・記憶・行動といった脳の高次機能にまで影響を与える。本研究では、アストロサイトの担う代謝機能を光操作することで、脳の複合ネットワークと、それを束ねるシグナルを解明することに取り組んだ。生体を流れる伝達物質や代謝産物等の情報因子のフローを光計測する方法と組み合わせ、代謝フローの障害・破綻にともなう脳病態・精神疾患の発症メカニズムも明らかにできると考えられる。細胞内外のイオン濃度変化、伝達物質濃度変化に加えて、代謝産物(ATP、乳酸、ピルビン酸)等も、情報を担う因子として捉えられる。これらの因子が脳内局所環境を変化させている場面では、神経細胞ではなくグリア細胞の活動が大きく関与している。しかし、いかんせん、脳内局所環境の変化は電気信号として計測できる形で顕在化しないので、これまで、この情報の流れを把握することは困難であった。そこで、本研究では、新規FRET蛍光センサータンパク質を用いて、細胞内の生体分子のダイナミックな動態を計測する技術を開発した。細胞内外の生体分子の流れ(フロー)をマルチモーダル計測し、脳内情報処理の仕組みを新たな視点で解明する研究を進めた。まず、蛍光変化には血流動態等が蛍光計測値に大きな影響を与えることが明らかになり、この効果を分離して解析する方法を開発する必要があった。その結果、マウスの行動に応じたアストロサイト発現Ca2+、pHセンサー、ピルビン酸センサーの動態を追跡することが可能となった。また、神経細胞発現ATPセンサーの応答を解析したところ、てんかん発作にともなうATPの減少が観察されたが、イオンバランスの回復がATPの消費の主な要因ではないことが示された。健常時と病態時の脳内代謝フローを比較することで、今後、新たな治療戦略に発展することが期待される。
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