研究課題/領域番号 |
19H03339
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
松本 正幸 筑波大学, 医学医療系, 教授 (50577864)
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研究分担者 |
小金澤 禎史 筑波大学, 医学医療系, 助教 (80431691)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 外側手綱核 / 自律神経系 / ドーパミン / セロトニン |
研究実績の概要 |
研究代表者らの先行研究が端緒となり、視床上部に位置する外側手綱核が嫌悪刺激によって活性化し、動物の負の情動生成に重要な役割を果たしていることが明らかになりつつある。また近年の研究は、外側手綱核の異常と鬱病や心的外傷後ストレス障害(PTSD)との関係についても報告している。本研究では、これらの疾患で見られる自律神経機能の異常に着目し、外側手綱核が自律神経制御に果たす役割とその制御メカニズムを神経回路レベルで明らかにすることを目的とする。これまでに、ラットの脳に電極を刺入して外側手綱核を電気刺激によって人為的に興奮させたとき、血圧と心拍数が変化すること、また、コントロール実験として外側手綱核の近傍にある内背側視床を電気刺激した場合には変化しないことを明らかにした。心臓副交感神経の切除によって外側手綱核の電気刺激によって惹起された心拍数への影響は低減するが血圧への影響については変化が無いこと、逆に、心臓交感神経の薬理学的ブロックによって血圧への影響は低減するが心拍数への影響については変化がないことを見出した。ドーパミン受容体拮抗薬またはセロトニン受容体拮抗薬を全身投与することによっても、外側手綱核の電気刺激が血圧や心拍数に与える影響が低減した。そしてさらに、セロトニン神経系の起始核の一つである背側縫線核を薬理学的に不活化すると外側手綱核の電気刺激の効果が消失したことから、外側手綱核―背側縫線核神経路が外側手綱核がセロトニン神経系を介して自律神経制御をおこなう回路基盤であると考えられる。以上の結果は、外側手綱核の活動がドーパミン神経系/セロトニン神経系を介して自律神経制御に重要な役割を果たしていることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、外側手綱核が自律神経制御に果たす役割とその制御メカニズムを神経回路レベルで明らかにすることを目的とするが、すでに外側手綱核の活動操作が血圧と心拍数に影響を与えること、ドーパミン神経系とセロトニン神経系がこれらの自律神経制御に関わっていること、特にセロトニン神経系に関しては外側手綱核―背側縫線核神経路が重要な役割を果たすことを明らかにした。これまでに、セロトニン神経系に関するデータについて論文にまとめて発表した。現在は、ドーパミン神経系に関してより詳細な神経路を解析するための実験を進めている。以上から、本研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでにおこなった電気刺激実験や薬理学実験により、外側手綱核がドーパミン神経系やセロトニン神経系を介して自律神経制御に重要な役割を果たしていることが示唆された。今後の研究の推進方策として、まず、これまでに得たドーパミン神経系に関するデータをまとめ、令和3年度中に論文として投稿する準備を進める。そして、外側手綱核がドーパミン神経系を介して自律神経制御をおこなう回路基盤を明らかにするため、ドーパミン神経系の起始核である腹側被蓋野や黒質緻密部を薬理学的に不活化したとき、外側手綱核の電気刺激が自律神経制御に与える影響がどのように変化するのか解析する。たとえば、腹側被蓋野の不活化により、外側手綱核の電気刺激によって生じる血圧や心拍数の変化が消失すれば、外側手綱核―腹側被蓋野神経路が自律神経制御に重要な役割を果たしていることが明らかになる。さらに、これまでは全身投与していたドーパミン受容体拮抗薬やセロトニン受容体拮抗薬を、側坐核や偏桃体などに局所投与したとき、外側手綱核の電気刺激によって生じる血圧や心拍数の変化がどのような影響を受けるのか解析し、外側手綱核による自律神経制御機構を神経回路レベルで明らかにしたい。
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