研究代表者らの先行研究が端緒となり、視床上部に位置する外側手綱核が嫌悪刺激によって活性化し、動物の負の情動生成に重要な役割を果たしていることが明らかになりつつある。また近年の研究は、外側手綱核の異常と鬱病や心的外傷後ストレス障害(PTSD)との関係についても報告している。本研究では、これらの疾患で見られる自律神経機能の異常に着目し、外側手綱核が自律神経制御に果たす役割とその制御メカニズムを神経回路レベルで明らかにすることを目的とする。これまでに、ラットの脳に電極を刺入して外側手綱核を電気刺激によって興奮させたとき、血圧と心拍数が変化することを明らかにした。また、心臓副交感神経の切除によって外側手綱核の電気刺激によって惹起された心拍数への影響が低減すること、逆に、心臓交感神経の薬理学的ブロックによって血圧への影響が低減することを見出した。さらに、ドーパミン受容体拮抗薬またはセロトニン受容体拮抗薬を全身投与することによって、外側手綱核の電気刺激が血圧や心拍数に与える影響が変化することを見出した。そして、セロトニン神経系の起始核の一つである背側縫線核を薬理学的に不活化すると外側手綱核の電気刺激の効果が減弱し、一方で、ドーパミン神経系の起始核の一つである中脳水道周囲灰白質腹外側部を不活化すると外側手綱核の電気刺激の効果が増強した。これらのことから、外側手綱核-背側縫線核神経路が、外側手綱核がセロトニン神経系を介して興奮性に自律神経制御を行うための回路基盤であり、一方、外側手綱核-中脳水道周囲灰白質腹外側部が、外側手綱核がドーパミンニューロン神経系を介して抑制性に自律神経制御を行うための回路基盤であるものと考えられる。以上の結果は、外側手綱核の活動がドーパミン神経系/セロトニン神経系を介して自律神経制御に重要な役割を果たしていることを示唆している。
|