研究課題/領域番号 |
19H03340
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
坪井 昭夫 大阪大学, 生命機能研究科, 特任教授 (20163868)
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研究分担者 |
高橋 弘雄 香川大学, 医学部, 助教 (20390685)
森 英一朗 奈良県立医科大学, 医学部, 准教授 (70803659)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 神経科学 / 脳・神経 / 脳神経疾患 / 脳梗塞モデルマウス / 神経細胞死 / 神経保護 / 神経可塑性 / 転写因子 |
研究実績の概要 |
A)脳梗塞により発現するNpas4に関する初代培養細胞を用いた解析 A-1)ニューロンの細胞死に関する解析:脳梗塞後のニューロンの動態を、細胞レベルで解析する手法として、初代培養ニューロンに虚血様負荷(低酸素・無糖)を与える方法がある。申請者らは、Npas4欠損マウス由来のニューロンでは、虚血様負荷による細胞死が顕著に増加するのに対して、野生型マウスのニューロンにNpas4遺伝子を過剰発現させると、虚血様負荷による死細胞が減少することを見出した。
A-2)Ca2+イメージングを用いた解析:虚血が起こると、酸素・エネルギーの欠乏によりニューロンで膜電位が上昇し、それに伴いNMDA受容体の過剰な活性化や、異常な細胞内へのCa2+流入が起こり、細胞死につながる。申請者らは、Npas4遺伝子を過剰発現させたニューロンでは、虚血様負荷によるCa2+流入が抑えられることを見出した。また、Ca2+イメージングを用いて、各種の阻害剤の影響を検討した結果、Npas4が虚血様負荷による細胞内へのCa2+流入を抑えるのに、電位依存性Ca2+チャネルが関与していることを明らかにした。
B)脳梗塞により発現するNpas4の標的遺伝子の同定:転写因子Npas4はその下流遺伝子の発現を調節して、脳梗塞後のニューロンの生存を促進していると考えられる。申請者らは、脳梗塞モデルマウスに関するRNAシークエンシング解析により、脳梗塞後の初期に発現が変化する遺伝子を上位200個に絞った。その中から、野生型とNpas4欠損マウスから調製した初代培養ニューロンに虚血様負荷を与えて、その欠損により発現が変化する遺伝子を、定量PCRを用いて検索したところ、30個の候補遺伝子が得られた。そして、初代培養ニューロンにそれらの遺伝子を各々導入し、虚血時にニューロンの生存を促進する遺伝子を探したところ、1つの遺伝子が同定された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
脳梗塞による虚血時において、転写因子Npas4は神経細胞の生存に必須な因子であるが、転写因子をターゲットとした創薬はその作用点が多岐にわたる可能性が懸念された。そこで本研究では、Npas4が発現制御する下流遺伝子を検索した結果、1つの候補分子を同定することに成功した。
そこで次に、このNpas4下流遺伝子の欠損マウスを作製して、2020年3月までに、この分子に関する実験、実験結果の解析、研究成果のとりまとめを行う予定であった。しかしながら、Npas4下流遺伝子のノックアウト(KО)マウスを作製する過程で、当初の想定に反して、このヘテロKОマウスの雄と雌同士を交配した際に、ホモKОマウスが生まれにくく、解析に必要な個体数を取得するのが困難であることが判明した。本研究遂行上、Npas4下流遺伝子のホモKОマウスは不可欠であるので、作製を半年間延長して、本実験を実施する必要が生じた。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き、A)脳梗塞により発現するNpas4の培養細胞を用いた機能解析、及び、B)脳梗塞により発現するNpas4の標的遺伝子の同定を行うと共に、以下のC)も行う。
C) Npas4関連因子を用いた脳梗塞の治療 C-1) 外界からの刺激による脳梗塞の治療:健常脳では、感覚刺激による神経活動に依存してNpas4遺伝子の発現が速やかに誘導される。興味深いことに、外界からの刺激が多い環境(豊富な環境)で飼育されたラットでは、脳梗塞手術による梗塞巣のサイズが優位に減少することが報告された。申請者らは、マウスを40分間新規ケージ(豊富な環境)に暴露すると、盛んに探索行動を行うことにより、大脳皮質のニューロンで Npas4遺伝子の発現が誘導されることを見出した。そこで、豊富な環境への暴露により、Npas4遺伝子の発現が誘導されたマウスに対して脳梗塞手術を行い、予後の梗塞巣サイズ、神経回路の可塑性、運動機能などへの影響を解析する。また、Npas4欠損マウスについても同様な実験を行う。
C-2) Npas4関連因子を用いた脳梗塞の治療:初代培養ニューロンを用いた解析では、Npas4遺伝子の過剰発現により、ニューロンの細胞死が抑制される。そこで、アデノ随伴ウイルスを用いてNpas4(その下流因子)を遺伝子導入したマウスに対して脳梗塞手術を行い、これらの遺伝子の過剰発現による治療効果の有無を検討する。新生仔の脳室にアデノ随伴ウイルスを注入すると、ウイルスが大脳皮質に漏れて広く感染することが報告された。そこで、日置寛之博士が開発したSynapsin promoterとTet-Off promoterを組み合わせたアデノ随伴ウイルスベクターを用いて、脳梗塞手術前にニューロン特異的にNpas4(その下流因子)遺伝子を発現させ、脳梗塞後の梗塞巣の大きさを明らかにする。
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