前年度に開発した、対面する2頭のニホンザルが3試行毎にアクターとオブザーバーの役割を交代して動作選択を交互に繰り返すタスクを遂行中に、大脳前頭葉皮質の腹側運動前野と内側前頭前野から、神経活動を同時に計測した。これら2領域の同定は電気生理学的におこなった。神経活動として、単一神経細胞活動と局所場電位を計測した。単一神経細胞活動の定量的解析結果に基づいて、自己の動作に選択的に応答する神経細胞(自己ニューロン)、他者の動作に選択的に応答する神経細胞(他者ニューロン)、自己と他者を区別せずに応答する神経細胞(ミラーニューロン)を見出した。また、他者ニューロンのサブタイプとして、他者の動作エラーに選好性を示す神経細胞(他者エラーニューロン)を見出した。他者ニューロンと他者エラーニューロンの割合は、腹側運動前野と比べ内側前頭前野で有意に高かった。実在のサルと対面してタスクを遂行した場合と、画面内の事前録画された物体と対面してタスクを遂行した場合とで、有意な活動差を示す他者ニューロンが二領域で認められた。局所場電位の解析では、二領域において自己と他者の動作遂行中に10Hz未満の帯域の振幅が増加したが、その程度は自己動作の遂行時に顕著であった。また、コヒーレンスを指標とした二領域間の同期活動は、自己と他者の動作遂行時に増加した。この増加は、特に10Hz未満の帯域で顕著であった。他者の動作情報処理における腹側運動前野と内側前頭前野の機能差及び機能連関の存在が示唆された。
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