研究実績の概要 |
ホウ素中性子捕捉療法 (BNCT) には、腫瘍細胞選択的に効率よく10B原子を集積させるホウ素キャリアの開発が必須である。我々はこれまでmercaptoundecahydrododecaborate (BSH) などのホウ素クラスターに腫瘍選択性を付与し、膜透過性を向上させる分子修飾を試みてきたが、この戦略では細胞取り込みの大幅な向上は達成できなかった。そこで、本研究では、腫瘍細胞の特徴であるグルタミン依存性やアミノ酸要求性を利用して、ホウ素含有分子を腫瘍細胞に集積させることを目指した。そのため、アミノ酸トランスポーターの輸送基質ミミックとして、疎水性ファーマコフォアであるホウ素クラスターを導入したアミノ酸誘導体の設計、合成、評価を行った。 LAT1 は多くのがんで高発現しており、細胞内に高濃度存在するグルタミンとの交換で大型側鎖を持つ中性アミノ酸(Phe, Tyr, Leu, Ile, Met, Trp, His, Valなど)を取り込むと考えられる。そこで、LAT1の輸送基質である芳香族アミノ酸や疎水性アミノ酸に疎水性イソスターのカルボラン(C2B10H12)を導入したアミノ酸誘導体1及び2を設計し、デカボランを原料としてMicrowave反応を用いて合成した。これらの化合物とBPAをT98G細胞に投与し、ICP-AESを用いて細胞内へのホウ素取り込み量の評価を行ったところ、化合物2がBPA及び1に比べて約10倍以上という高い取り込みを示した。さらにこれらの化合物10 μg 10B/mLで24 h処理したT98G細胞に熱中性子線を照射して生存率を調べたところ、化合物2は、BPA及び化合物1に比べ、T98G細胞の中性子線感受性を有意に強く増感させることがわかった。
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