研究課題/領域番号 |
19H03353
|
研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
濱島 義隆 静岡県立大学, 薬学部, 教授 (40333900)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | フッ素化学 / 不斉合成 / 相間移動触媒 / アルケン / ラジカル反応 / 光反応 / 創薬化学 |
研究実績の概要 |
本研究では、我々が独自に開発した多機能性ジアニオン型相間移動触媒を活用し、「高度に組織化されたキラル空間に置かれた高反応性フッ素化剤」を触媒的に発生させることで、これまで困難であった立体選択的フッ素化合物合成法を開発する。 アルケンの不斉フッ素官能基化反応においては、先に開発したアリルアミドの不斉フッ素環化反応の展開として、1,1,2-三置換アルケンのアリルアミドに対する不斉フッ素化を検討したところ、エナンチオ選択的に対応するアリルフルオリドを与えた。鎖状アリルアミドをアルケンから合成する方法は他に報告例がないため、現在、基質一般性の改善を目指し検討中である。 また、触媒のカルボキラートとの水素結合が重要であったことを踏まえ、ヒドロキシ基を配向基とする反応を検討している。今年度は、オキシムをもつアルケン化合物のフルオロ環化反応を検討し、エナンチオ選択的な5-exo環化反応を開発した。また、ヒドロキシアレーンの反応を検討し、置換フェノールや置換2-ナフトール類の脱芳香族フッ素化がエナンチオ選択的に進行することを見出した。2-ナフトール類の不斉フッ素化はこれまで報告例がないことから、現在条件の最適化を行っている。 アルケンのフッ素化と並行して、C-H結合の選択的フッ素化にむけた初期検討を行った。ベンゾフェノンなどのケトン触媒共存下、相間移動触媒に用いられる溶媒中においてベンジル位C-Hフッ素化が進行するかを調査した。しかしながら、反応の収率は低かった。ケトン触媒による水素原子引き抜きが進行していないと考えられる。そこで炭素ラジカル種の立体選択性制御が可能か調べるべく、間接的に炭素ラジカルを発生させる方法を実施した。その結果、収率は低いものの相間移動触媒条件下で中程度の不斉誘起を確認できた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、独自に開発したジカルボキシラート触媒のイオン結合と水素結合により、触媒、基質、フッ素化剤の三者を自己会合させ、反応促進と選択性制御を同時に行う。具体的な水素結合ドナーとしてヒドロキシ基を有するアルケンや芳香族化合物の不斉フッ素化を検討している。今年度は、先行研究で見出していたアミドに加えて、オキシムのヒドロキシ基および酸性度が比較的高いフェノール性ヒドロキシ基を有するアルケン基質に対する触媒的不斉フッ素官能基化を検討したところ、期待以上の成果を得ることができた。ジカルボキシラート触媒はエン-オキシムの5-exo環化に有効であり、基質一般性を含めた成果を論文として報告した。この結果から、ヒドロキシ基も本触媒期において配向基として利用可能なことが明らかとなった。そこで申請書の計画に従い、より酸性度の高いフェノール性ヒドロキシ基を配向基とする反応へと研究を展開した。その結果、置換フェノールの電子的違いにより芳香族フッ素化と脱芳香族型フッ素化が選択的に進行することも見出すことができた。 アルカンの直接的C-Hフッ素化に関しては、光化学を利用するC-H結合の活性化と融合させる方針で研究を開始したが、研究実績の概要にも記載したように、目下のところ、反応を効率的に進行させることはできていない。しかしながら、別手法により炭素ラジカル種を発生させると収率の改善が必要であるものの、我々の相間移動触媒条件においてラジカル種のエナンチオ選択的なフッ素化が中程度の選択性で進行することを見出した。この結果は、炭素ラジカル種の立体選択性を制御可能であることを示しておい、間接的なラジカル発生法を直接的C-H活性化で置換できれば、目的とするC-H不斉フッ素化に繋がることを示唆している。このことから、研究手段は当初の計画と異なるが、重要な知見を得ており、研究は比較的順調に進んでいると判断できる。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度見いだしたヒドロキシアレーンの脱芳香族型不斉フッ素化の一般性の改善をめざし、更なる条件検討と触媒構造の改良を行う。現在良好な選択性が認められた2-ナフトールに加え、フェノール性ヒドロキシ基を配向基とする不斉フッ素化の最適条件を確立し、創薬研究に適用できる機能性フッ素化合物の創製を目指す。この知見をもとに今後は、より酸性度が高いと予想されるスルホンアミドを配向基とするアミノフッ素化を検討する。さらに、脂肪族不飽和アルコールに適用できる条件を探索し、これまで開発例のないフルオロエーテル環化反応の開発を目指す。フルオロエーテル化は創薬化学的に有用な反応であるが、これまで成功例は全く報告されていない。アルコールはアミドよりもコンフォメーションが柔軟である点が課題である。しかしながら、ジアニオン触媒がヒドロキシ基と強く水素結合すると考えられるため、高い反応効率を期待できる。 一方、アルカンの直接的C-Hフッ素化をめざす前段階として、本年度明らかとなったラジカル的フッ素化の不斉誘導をさらに改善する。この目的のために、炭素ラジカルの発生法、基質の配向基、アニオン性相間移動触媒を種々検討する。まず、収率の改善が必要であり、そのためには炭素ラジカルの発生速度とラジカル種のフッ素化の速度のバランスを適切に調整することが望まれる。今後の方針としては、炭素ラジカル種の発生法を優先的に検討する。また、申請書の当初の計画に従って、C-Hフッ素化も引き続き検討する。本年度は、非極性溶媒中でも進行することが知られている、PCETによるC-H活性を不斉フッ素化の条件と融合する検討を行う。以上により、これまで達成されたことのない不斉C-Hフッ素化を目指す。
|