最終年度では、まずアリルアミドの不斉フッ素化反応の反応機構解析の成果をまとめた。その結果、アルケンの置換様式に依存して触媒活性種が変化し、アルケンの面選択性が逆転するという興味深い特徴を明らかとし、これを報告した。 さらに、触媒と基質との水素結合が重要であるという知見に基づき、アミド基以外の水素結合ドナーを有するアルケン基質を検討した。2-ナフトール類の成果に続き、置換レゾルシノールの初の脱芳香族不斉フッ素化に成功し、syn-選択的ジフッ素化反応が高エナンチオ選択的(最高95% ee)に進行することを報告した。今後、生成物の構造的特徴を生かして共有結合型酵素阻害剤の設計に応用する予定である。また、フェノール性ヒドロキシ基が配向基として有効であったことから、フルオロエーテル化を検討した。基質一般性は乏しいもののフルオロエーテル体が高立体選択的に得られた(最高97% ee)。フルオロエーテル化は有用であるが、これまでほとんど報告例がないため、引き続き反応効率の改善に取り組んでいく。 また、配向基として求核力の低いスルホンアミドを用いたところ、フルオロカルボカチオン中間体がキラル空間において外部求核剤の攻撃を受けることを見いだし、三成分不斉フッ素官能基化が実現可能であることを確認した。 また、C-Hフッ素化の検討も行った。残念ながら計画した方法論は相間移動触媒反応に必要な非極性溶媒中では難しかったため、本研究では系内で発生させたラジカル種の不斉フッ素化を試みた。ジカルボキシラート触媒存在下で発生させたキラルフッ素化剤により50%程度ではあるものの不斉誘起が確認されたことから、炭素ラジカル種の不斉制御が可能であることを確認した。 以上のように、当初の計画と異なる点もあるが、創薬研究に利用可能な選択的フッ素化反応を開発し、一定以上の成果をあげることができたと判断している。
|