研究課題/領域番号 |
19H03354
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
中川 秀彦 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(薬学), 教授 (80281674)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ケージド化合物 / ナノ粒子 / 一酸化窒素 / 近赤外光 |
研究実績の概要 |
本年度は近赤外制御ケージドNO等の開発に着手した。これまでに、色素の励起に基づく光誘起電子移動反応(PeT)を鍵反応としてNO放出反応を開発してきた。この方法論は色素部を置換してもPeTを誘起できればNO放出する拡張性の高い反応機構であるので、色素部をSi-Rhodamine(600 nm程度)、あるいはPhospha-Rhodamine(700 nm程度)に置換した化合物についてNO放出能を検証した。また、別のNO放出機構としてこれまでに実績のあるニトロベンゼン誘導体をNO放出部としてNO放出剤について、フタロシアニン誘導体(800 nm)を光受容部として導入した化合物も合成しNO放出能を検証した。その結果、フタロシアニン誘導体を導入した化合物についてはもっとも長波長に吸収を示したがNO放出能は観察されなかった。一方、PeTタイプのNO放出剤においては、Si-Rhodamineタイプの化合物はNO放出部の置換位置を工夫することにより効率良く光応答性NO放出を起こすことが示された。Phospha-Rhodamineタイプについては合成反応における中間体が不安定であることが判明し合成収率が低収率であったため、目的化合物を少量得ることしかできず、NO放出効率は未検証である。 また、Ir錯体光酸化触媒とNO放出部のポリマーナノ粒子への封入を行った。これまで開発したケージドNOの1つNOBL-1のNO放出部であるN-ニトロソアミノフェノール誘導体を、紫色光酸化触媒となるIr(fppy)3とともにポリエーテル系ポリマーナノ粒子(PEG-PVKナノ粒子: PVK= poly-(9-vinylcarbazole))に封入し、紫色光による光制御NO放出が可能か検証した。その結果、紫色光照射時にNO放出することを確認した。また、共同研究者から提供された藍色吸収するIr錯体を用いてナノ粒子を作成したところ、藍色光照射によってNO放出が効率よく起こることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、近赤外吸収色素の1つであるSi-Rhodamineを光吸収部として含むケージドNO候補化合物を合成し、NO放出能を検証した。これまでに開発した光誘起電子移動型NO放出剤であるNOBL-1とNO-Rosaの比較から、NO放出部であるN-ニトロソアミノフェノール部の置換位置がNO放出効率に大きく影響を及ぼすことから、色素部に近い位置にNO放出部が配置される置換位置の化合物NORD1を合成した。NORD1はSi-Rhodamineを色素として含み、Rhodamineを色素部として含むNO-Rosaよりさらに励起光のエネルギーが小さく、励起される軌道のバンドギャップも小さいことから、色素の光励起による酸化力がNOBL-1で用いたBODIPY色素やNO-Rosaで用いたRhodamineよりさらに小さいと推定されたため、置換位置を色素部に近い配置となる分子設計とした。色素部の吸収波長である600 nm付近の光(赤色光)を照射しNO放出能を検証したところ、効率よくNO放出することが示された。 また、Ir錯体とNO放出部を含むナノ粒子において、光酸化剤として作用するIr錯体の吸収波長を変化させてNO放出効率を検証したところ、紫色光吸収錯体よりもやや長波長吸収を持つ藍色(430-460nm)吸収を持つIr錯体において光照射によるNO放出のON/OFFの効率が良いことが判明した。 これらの結果が得られていることから、研究は概ね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、Si-RhodamineタイプNO放出剤について、制御光波長が630 nm程度まで長波長化し、一定程度生体透過性が見られる波長となっていることから、ex vivo及びin vivoの実験に着手する。まずex vivoの実験系については、ラット大動脈切片を用いたマグヌス試験を実施し、光照射によって血管弛緩作用が再現できるか検証する。またin vivo実験については、共同研究者が有するラット血管弛緩実験系を用いて、光照射による血圧変化を検証する。 ナノ粒子封入型NO放出剤については、多様な光酸化剤を用いて光酸化機構によるNO放出の化学反応系を検証する。Ir錯体は現状では青色光程度の吸収波長までしか長波長化が実現できておらず、近赤外付近まで吸収波長を長波長化することは難しいと考えられる。そこで、他の光酸化剤、特に有機色素系光酸化剤について検討を行う。これにより、ナノ粒子封入型NO放出剤についても、長波長吸収型のNO放出剤を開発することが可能と考えられる。
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