我々は本研究課題において①生体を指向した新たな蛍光色素骨格の開発、②蛍光色素の精密配置に基づいた円偏光発光 (CPL) 材料の開発、③色素を用いた新たな有機化学の創出の三点を目標とし、呈色/蛍光色素研究を基盤とした研究を行った。実施最終年である本年度は以下のような研究実績を挙げることができた。 ①については、細胞からの自家蛍光との重なりを避けるために、長波長に励起/発光波長をもつ蛍光色素が望ましい。しかしながら単純にπ系を拡大する手法は、溶解度の低下、蛍光量子収率の低下を招き首尾よくいかない。そのためフルオレセインと同程度の分子量ながらπ系を拡張したV字型の蛍光色素を合成した。これらの色素は置換基の違いにより、大きく励起/発光波長が異なることが分かった。またそれらの色素を用いて細胞への取り込みなども実施した。 ②のCPL材料の研究では、従来のオリゴナフタレンからBINOLに大きく系を単純化し、π系の拡張のためにフェニルアセチレンを様々な位置に導入した化合物を合成し、さらにBINOLの水酸基を炭素鎖で連結した化合物を合成し、その光学特性を評価した。その結果、一炭素架橋体が最も大きなCPL活性を示し、さらにフェニルアセチレンの導入位置により、光学特性が大きく変化することを見出した。 ③の色素を用いた新たな有機化学の創出については、新たにインジゴを骨格とした分子を合成した。インジゴの窒素原子間を様々な鎖長の炭素鎖で連結し、その光異性化を精査した。通常はトランス体からシス体に光異性するはずであるが、この系ではシス体が不安定であり、かつシス体からトランス体への異性化の障壁が少ないことから、シス体は確認できずトランス体から(短寿命のシス体を経由し)トランス体に異性化する挙動が観察された。
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