研究課題
独自創製の固相ジスルフィドライゲーション(固相DSL)法の化学的有用性及び創薬展開の可能性検証を継続した。1)化学的有用性検証: ① ジスルフィド含有環状ペプチドの効率的合成として、昨年度達成したジスルフィド先導型環状ペプチド合成(DSDCPS)法によるエンドセリン合成に加え、今年度はジスルフィド構造を有するペプチドの全構造を樹脂上で構築する効率的合成法として、 別途固相上環状ペプチド合成法を確立し、オキシトシン、MCH、コノトキシンの合成を達成した(Eur. J. Org. Chem.誌にて報告)。本法は自動ペプチド合成機にも応用され、実用性のある効率的合成法であることが示唆された。一方、② 固相DSLによるジスルフィド単位を複数有する多重ジスルフィドペプチド(電車ペプチド)の合成では、蛋白質合成への応用として多重ジスルフィド型HIV-1プロテアーゼの合成に成功した。酵素活性は得られなかったが、多重ジスルフィドペプチド合成の可能性を示す有意義な知見を得た。尚、固相DSLによるインスリンの合成は継続案件とした。2)創薬展開: ③中分子ペプチドを中核とするユニークな「新規架橋分子」として、抗がん剤のAPDC(抗体ーペプチドー薬物架橋体)創製研究を継続した。今年度は、抗がん剤分子との架橋体合成に焦点を当てて研究を展開し、抗体Fc部結合ペプチド(IgBP)と葉酸の架橋体が、がん細胞へ細胞障害性IgGをリクルートすることを示し、本成果をRSC Med. Chem.誌に発表した。④PDC(ペプチドー薬物架橋体)の創薬基盤の構築のために、タイトジャンクション開口活性を示す環状デプシペプチドMA026の構造最適化研究に注目し、今年度はその構造訂正をAngew. Chem.誌に発表できた。尚、Negamycin誘導体の新規高活性導体創製では新型誘導体の創製に成功した。
2: おおむね順調に進展している
今年度も固相ジスルフィドライゲーション(固相DSL)法に基づいたインスリンの全合成は達成できなかったが、論文未発表ではあるが、アミド結合ではなく、ジスルフィド結合でペプチドフラグメントを連結することで、多重ジスルフィド型HIV-1プロテアーゼ(タンパク質)の合成にも成功した。したがって、固相DSLの化学的有用性検証に関する研究は概ね順調に進展していると言える。一方、申請者が別途独自に創製した「自動固相上環状ペプチド合成法」の化学的な有用性及び創薬展開の可能性に関する検証を開始し、有意義な成果を得ることができた。具体的には、自動ペプチド合成機にも応用可能な手法として、ペプチドの環状構造を樹脂上で形成して、一度の脱保護で環状ペプチドが得られる効率的合成法を確立し、ジスルフィド結合を分子内に1つ有するオキシトシンやMCH、2つ有するコノトキシンの全合成を達成し、その成果を論文にできた。固相DSL技術の創薬展開では、「新規架橋分子」の構築に基づく抗がん剤創製研究を継続した。具体的には、抗体Fc部結合ペプチド(IgBP)と葉酸の架橋体を創製し、これを用いて細胞障害性のIgGをがん細胞へリクルートする実験に成功し、学術誌に発表できた。さらに、新たなPDC(ペプチドー薬物架橋体)創製に関する研究基盤の整備として、タイトジャンクション開口活性を有する環状デプシペプチドMA026の構造最適化研究において、真のMA026の化学構造を決定し、構造訂正の論文を学術誌に発表誌で発表できた。構造が間違っていたために当初予定した構造活性相関研究は、若干遅れ気味であるが、複数の誘導体の合成が進んでおり、全体を通して固相DSL技術の創薬研究展開も概ね順調に進行している。
この2年間で、研究は概ね計画通りに進行していることから、次年度も当初の計画に沿って研究を展開し、固相ジスルフィド形成の化学を利用し、生命科学や創薬に貢献する中分子ペプチド架橋体の創製に注力していきたい。ペプチドの全環状構造を樹脂上で形成出来る効率的合成法「自動固相上環状ペプチド合成法」を確立できたことから、次はジスルフィド結合を3本有する複雑なペプチド医薬品であるインスリンなどのDSDCPS(ジスルフィド先導型環状ペプチド合成法)による合成、および環状ペプチド医薬品リナクロチドやジコノチドについても固相上環状ペプチド合成法を実施し、効率的合成法としての実用性の検証をさらに進める。また、固相DSLにより区分ペプチドをジスルフィド結合で連結していく多重ジスルフィドペプチド合成法により、多重ジスルフィド型HIV-1プロテアーゼの合成に成功したことから、次年度は補足情報を追加し論文化をめざす。一方、固相DSL技術の創薬展開研究としては、中分子ペプチドを中核とするユニークな「新規架橋分子」として抗がん剤のAPDC創製研究を継続する。殊に、IgBPのさらなる高親和性化を検討する。一方、PDC架橋体創製における研究基盤整備では、改訂MA026の構造に基づく構造最適化研究を実施し、強力なタイトジャンクション開口活性を有する環状デプシペプチドの創製を目指す。さらに本研究者が創製した医薬関連化合物(Negamycin誘導体など)の経皮吸収増大に資する架橋体創製研究も開始したい。尚、Negamycin誘導体の高活性化をめざした新規導体創製も新型誘導体の創製に成功したことから、その論文化をめざす。次年度も田口晃弘講師を分担研究者とし、引き続き固相DSLによるインスリン等の合成を担当していただく。
すべて 2021 2020 その他
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (2件)
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