これまでに我々のグループでは、GlcNAc転移酵素AGO61(別名POMGnT2)がα-ジストログリカン(αDG)上に発現しているラミニン結合性糖鎖合成の初期段階に関与していることを明らかにしてきた。本研究を通じて、我々はヒト由来AGO61の結晶構造を2.80オングストロームの分解能で決定した。その結果、AGO61は大きな触媒ドメインと小さなフィブロネクチンIII型(FN3)ドメインが約15残基のリンカーを介して繋がれた構造をとることを明らかにした。興味深いことに、結晶中においてAGO61のFN3ドメインは、隣接分子の触媒ドメインと相互作用することで2量体を形成することが示唆された。 今年度の研究では種々の物理化学的手法を用いて、AGO61の溶液中における高次構造解析を行った。FNIIIドメインを欠損したAGO61は凝集体を形成したことから、FN3ドメインはタンパク質の安定性に寄与していることが予想された。一方、超遠心分析を行った結果、溶液中においてAGO61はもっぱら2量体を形成していることが明らかになった。また、高速原子間力顕微鏡解析の結果においても、AGO61は単量体構造ではなく、結晶構造で見られたような2量体構造をとることがわかった。AGO61の2量体構造中において、一方のサブユニットの触媒ドメインと他方のサブユニットのFN3ドメインと一体となって基質認識部位を形成している可能性が示唆された。このことは、AGO61がαDGの特定のアミノ酸配列におけるマンノース残基にGlcNAcを転移するタンパク質特異的な糖鎖修飾の実現に寄与しているものと考えられる。
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