研究課題/領域番号 |
19H03364
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
松田 正 北海道大学, 薬学研究院, 教授 (20212219)
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研究分担者 |
室本 竜太 北海道大学, 薬学研究院, 講師 (30455597)
柏倉 淳一 北海道大学, 薬学研究院, 講師 (90373290)
鍛代 悠一 北海道大学, 薬学研究院, 助教 (90756165)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 免疫 / アレルギー / シグナル伝達 / サイトカイン / 疾患制御 / 炎症 |
研究実績の概要 |
本研究ではSTAT3/NF-κB関連分子群のうち特にTyk2やSTAP-2を中心にアレルギーや自己免疫疾患などの疾患モデルでのフェノタイプ解析ならびに疾患発症の分子 機序の解明から疾患特異的なシグナル修飾や新規標的分子の同定を進め、疾患発現機序の解明と新規診断薬や治療薬への応用を目指す。そのため以下の項目の研究を実施した。 1. 遅延型アレルギー/肉芽腫形成におけるTyk2/STAT3シグナルの機能解析: マウスへのアクネ菌投与では脾臓の肥大や肝臓での肉芽腫形成が誘導されるが、Tyk2欠損マウスを用いてアクネ菌投与での肉芽腫病態形成や好中球の遊走を伴う急性腹膜炎が軽減されることを明らかにした。 2. 即時型アレルギー応答におけるSTAP-2/NF-κBシグナルの機能解析: これまでSTAP-2がマスト細胞でのIgE依存性アレルギー反応を制御することを示したが、今年度、STAP-2が好塩基球にも発現し、IgE依存性アレルギー反応に関与することを明らかにした。 3. 炎症性自己免疫性皮膚疾患・乾癬におけるTyk2/STAT3/IL-17/NF-κBシグナルの機能の解析: 乾癬病態増悪化機序におけるTyk2/STAT3/IL-17シグナルの標的としてIκB-ζを同定し、その発現がTyk2/STAT3シグナルによる転写活性化及びL-17による転写翻訳後修飾により制御されることを明らかにした。さらに多発性硬化症の治療薬フマル酸ジメチルがIκB-ζ発現を阻害することも示した。 4. 線維症化におけるSTAP-2の機能解析: STAP-2はマクロファージを活性化に関与することから、現在、STAP-2の線維化病態への関与をブレオマイシン(BLM)誘導性肺線維化マウスモデルを用い、STAP-2欠損マウスでのBALF中の各種細胞数や肺組織での炎症、細胞遊走、繊維化に関わる遺伝子発現の変動を解析している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度、遅延型アレルギー/肉芽腫形成におけるTyk2/STAT3シグナルの機能解析においては、Tyk2欠損マウスを用いたアクネ菌誘導性肉芽腫病態形成や好中球の遊走を伴う急性腹膜炎等の炎症応答の軽減はマクロファージでの抗炎症性サイトカインIL-10の産生によること、さらにTyk2欠損によるIL-10産生増大にはPGE2/PKAシグナルが関与することを示し、新たな創薬標的を提示した。 即時型アレルギー応答において、STAP-2がマスト細胞でのIgE依存性アレルギー反応を制御すること、STAP-2が好塩基球にも発現し、 IgE依存性アレルギー反応に関与することを明らかにした。 また、STAP-2がマスト細胞における即時型アレルギー増悪化に関与する炎症性サイトカインIL-33シグナルを制御することも明らかとなってきている。 炎症性自己免疫性皮膚疾患・乾癬におけるTyk2/STAT3/IL-17/NF-κBシグナルの機能の解析では乾癬病態増悪化機序におけるTyk2/STAT3/IL-17シグナルの標的としてI κB-ζを同定し、その発現がTyk2/STAT3シグナルによる転写活性化及びIL-17による転写翻訳後修飾により制御されることを明らかにした。IκB-ζが乾癬病態の原因となる遺伝子群の活性化を担うことや、IL-17によるIκB-ζmRNA安定化機序にACT1やTBK1、regnase-1などの分子群が関与することや、多発性硬化症として認可されている治療薬フマル酸ジメチルのIκB-ζ発現阻害効果することも明らかとなり、乾癬治療への応用や新たな創薬につながる知見が得られている。また、がん免疫を担う免疫チェックポイント分子群の発現機能へのこれら免疫シグナルの関与を検討し、CD47分子の新規機能も明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
本年度、遅延型アレルギー/肉芽腫形成おけるTyk2/STAT3シグナルの機能解析においては、Tyk2欠損マウスを用いてアクネ菌誘導性炎症応答が軽減されることを明らかにしたが、現在、Tyk2欠損マウスマクロファージで特異的に発現増強あるいは低下している遺伝子群をRNAseqにより選別した後、これら遺伝子群の機能解析により、炎症応答制御に関わる新規Tyk2標的同定しており、機能解析を進めている。 乾癬病態増悪化機序におけるTyk2/STAT3/IL-17シグナルの標的としてIκB-ζを同定し、その発現がTyk2/STAT3シグナルにより制御されることを明らかにし、さらにIL-17によるIκB-ζmRNA安定化機序にACT1やTBK1、Regnase-1などの分子群が関与することを示したが、現在はRegnase-1の翻訳後修飾による機能制御機構の詳細解明を進めており、乾癬治療への応用や新たな創薬につながる。 マスト細胞における炎症性サイトカインIL-33受容体下流のNF-κB活性化シグナルへのSTAP-2の関与が示唆されており、NF-κB活性化シグナル分子群との相互作用の解析から即時型アレルギー増悪化におけるSTAP-2の機能を明らかにすることが可能である。また、STAP-2のB細胞受容体下流シグナルへの関与も示されており、この点についても下流シグナル分子との相互作用解析を進める。さらに、STAP-2の線維化病態への関与をブレオマイシン(BLM)誘導性肺線維化マウスモデルを用いた解析により、STAP-2を標的とした線維化治療薬への手掛かりを得られると考えられる。また、がん免疫を担う免疫チェックポイント分子群の発現機能へのこれら免疫シグナルの関与の解析を進める。STAP-2の構造解析のための大腸菌や哺乳動物細胞発現でのリコンビナントSTAP-2作製も進めており、構造解析により、機能発現の分子機序を明らかにできるものと考えられる。
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