昨年度までに、発生過程のショウジョウバエにおいて非必須アミノ酸であるチロシンを制限するとATF4で制御される飢餓応答が惹起されることがわかった。このチロシンによるATF4活性化はGCN2に非依存する形で起こる新規栄養応答であることがわかり、ATF4の下流では摂食の代償的な増強を制御するホルモンであるCNMaが誘導されることが明らかとなった。CNMaは、脳のセロトニン神経に発現するCNMa受容体を介して摂食を制御していることが示唆された。またチロシンは、脂肪体におけるTor活性にも影響することがわかり、チロシンによるTor制御はロイシンによるTor制御とは独立した経路であることが示唆された。さらにRNAseqによりトランスクリプトミクス解析を行い、チロシン制限を経験した成虫において、発生期から継続して変化する遺伝子が複数とれた。現在、これら遺伝子の制御機構及び遺伝学的操作による成虫での機能解析を進めている。また、チロシンがATF4を活性化する機構について、哺乳類培養細胞での解析も同時に進めており、3T3-L1細胞でも似た経路の存在を示唆するデータを得ている。 一方、発生期の自然免疫を活性化させると、腸内細菌叢に不可逆的な変化が生じ、個体寿命が短縮することがわかった。興味深いことに発生期の神経特異的に免疫経路の遺伝学的な活性化を引き起こすと、成体において飢餓耐性、中性脂肪蓄積、摂食量の低下などの種々の生理変化がある事が明らかとなり、そのメカニズムに関わる候補遺伝子を絞り込むことが出来た。
|