研究課題/領域番号 |
19H03370
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
岡 昌吾 京都大学, 医学研究科, 教授 (60233300)
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研究分担者 |
森瀬 譲二 京都大学, 医学研究科, 助教 (60755669)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | AMPA受容体 / N型糖鎖 / シナプス可塑性 |
研究実績の概要 |
本研究では、シナプス可塑性の制御に中心的な役割を担うAMPA型グルタミン酸受容体(AMPA受容体)の細胞表面発現調節に関わる様々なトラフィッキング過程において、AMPA受容体上のN型糖鎖の機能的役割を明確にし、AMPA受容体によるシナプス可塑性制御機構の総合的理解を目指すことを目的としている。 AMPA受容体の主要な構成サブユニットであるGluA1とGluA2の各糖鎖付加部位変異体を単独でHEK細胞に導入し、その表面発現量をビオチン化法や細胞染色により解析した結果、GluA1のN63とN363位およびGluA2のN256位の3つの糖鎖が細胞内から細胞表面への輸送に重要な役割を担うことが明らかになった。また、GluA1とGluA2の各糖鎖付加部位変異体の細胞表面上での側方移動やサブユニットの会合を含む分子動態を、1分子イメージング法によって解析するために、まず野生型の分子動態を解析した。その結果、AMPA受容体は安定的な4量体として細胞表面を移動するのではなく、多くのものが単量体として存在し、一過性に二量体、三量体、四量体を形成していることが明らかとなった。この現象は神経細胞でも観察され樹状突起膜上では、その多くが単量体(または一部二量体)として高速で動いてシナプス内に入り込むこと、また、シナプスから出ていくときも単量体として素早く出ていくことが明らかとなった。さらにマウス脳よりGluA1を部分精製し、糖鎖付加部位ごとの構造解析を行った。その結果、表面発現に重要糖鎖付加部位であるGluA1のN63には高マンノース型糖鎖がN363位には主に複合型糖鎖が存在することが明らかとなった。またGluA1のN401には糖鎖が付加していないものが存在することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではAMPA受容体によるシナプス可塑性制御機構の総合的理解を目指している。本年度はGluA1やGluA2の糖鎖付加部位変異体を用いた細胞表面発現量の解析により、GluA1のN63とN363位およびGluA2のN256位の3つの糖鎖が細胞内から細胞表面への輸送に重要な役割を担うことを明らかにすることができた。さらに脳内のGluA1やGluA2の糖鎖構造解析によって、これらの糖鎖付加部位に存在するの構造の推定を研究協力者の川崎教授との共同研究で明らかにした。またGluA1のN401には糖鎖が付加されていないものがあり、その存在量が年齢に依存して変化することなどを、宮崎大学の高宮教授との共同研究で明らかにした。さらに一分子イメージング法を用いたAMPA受容体の細胞表面での側方拡散やサブユニットの会合などの分子動態についてGluA1とGluA2の野生型を用いた解析により、AMPA受容体は安定的な4量体で移動するのではなく、細胞膜上では主に単量体として存在していることを示す結果が得られた。この結果は、従来の考え方を大きく変えるものであり、AMPA受容体によるシナプス可塑性制御機構解明に大きく寄与るすものである。また、AMPA受容体のチャネル機能や表面発現を制御することが知られている補助サブユニットStargazin(Stg)を用いて、AMPA受容体の主要サブユニットGluA1(またはGluA2)との同時2色一分子観察を行うことにも研究協力者の鈴木健一教授との共同研究により成功した。その結果、StgはAMPA受容体の四量体と複合体を作ると考えられてきたが、実際にはStgはGluA1の単量体や二量体と一過的な複合体を細胞膜上で作ることが分かった。以上のことから本研究は概ね順調に計画が進行しているものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
GluA1のN63位とN363位およびGluA2のN256位の3つの糖鎖が細胞内から細胞表面への輸送に重要な役割を担うことを明らかになったが、一方でGluA1 N363の糖鎖付加部位変異体は、他の変異体とは異なり、野生型GluA2との共発現により細胞表面発現量がほぼ正常に戻ることがわかっている。この事実は上記の3つの糖鎖付加部位変異体が細胞内に留められる機構(それぞれの糖鎖が細胞表面量を調節する機構)が異なる可能性を示しており、この機構についての解析をさらに進める。一分子イメージング法を用いたAMPA受容体の細胞表面での側方拡散やサブユニットの会合などの分子動態についてはGluA1やGluA2の糖鎖付加部位変異体を用いて解析を行い、野生型との比較することによりN型糖鎖の役割を明確にする。さらにマウス脳より初代海馬神経細胞を調製し、グリシンやFolslolinなどを用いて化学的LTPを誘導した際の糖鎖付加状態の変化を解析するための実験系の確立を目指す。
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