研究課題/領域番号 |
19H03371
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
齊藤 達哉 大阪大学, 薬学研究科, 教授 (60456936)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 炎症 |
研究実績の概要 |
現代の日本では、医療・栄養水準の向上により多くの国民が長寿を享受している。一方で、過剰な栄養摂取による生活習慣病など、現代ならではの要因による疾患が顕在化してきている。これらの疾患の発症には、栄養代謝物などを感知した自然免疫機構を介して誘導される非感染性の炎症が深く関わっている。国民が長きにわたり健康な生活を営む社会を実現するためには、非感染性の炎症を理解し、関連する健康問題を解決することが不可欠である。本研究では、栄養代謝物などが炎症を過度あるいは慢性的に誘導することにより健康被害をもたらすメカニズムで解明する。H31-R1年度は、炎症に起因する肥満関連腎臓病のマウスモデルを作製した。これまでの肥満関連腎臓病の解析では、C57BL/6バックグラウンドのマウスに高脂肪食を与えた上で、アルブミンと結合させた脂肪酸を腹腔に投与して負荷をかけるモデルが用いられてきた。従来モデルは有用であるが、長期にわたり高脂肪食を与えるために解析に時間がかかること、様々な応答の総和を見るので原因に容易にはたどり着けないことなどの特徴がある。そこで、過栄養摂取によってオートファジー活性が低下・不足すること、炎症応答においてはマクロファージなどのミエロイド系細胞が中心的な役割を果たすこと、C57BL/6バックグラウンドよりもBalb/c バックグラウンドのマウスが腎障害に感受性が高いことなどから、ミエロイド系細胞においてオートファジーに必須の因子を欠損するBalb/cバックグラウンドのマウスを作製した。当該マウスは、脂肪酸の腹腔内投与による腎障害に極めて高い感受性を示した。脂肪酸の腹腔内投与のみで腎障害を誘導するため解析開始までにかかる期間が短くなり、さらに腎障害を誘導する主な原因を脂肪酸とミエロイド系細胞に限定して解析することが出来るようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
炎症に起因する肥満関連腎臓病のマウスモデルを作製することが出来た。本モデルマウスでの疾患発症はミエロイド系細胞においてオートファジーにより制御される炎症応答に起因すると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
ミエロイド細胞特異的ATG7遺伝子欠損マウスからマクロファージを単離し、FA-Alb(アルブミンと結合させた脂肪酸)による刺激を行う。予備研究では、これらのマクロファージにおいては自然免疫機構であるNLRP3インフラマソームが強く活性化し、炎症性サイトカインIL-1betaの放出が亢進することを確認している。まず、ELISAにより、IL-1betaと同様にNLRP3インフラマソームの制御を受けるIL-1alphaおよびIL-18のレベルを測定する。続いて、オートファジー不全により当該炎症応答が亢進する原因を探る。具体的には、NLRP3インフラマソームの活性化を引き起こすことが知られている、リソソーム膜の損傷やミトコンドリアからの活性酸素種の産生が強く誘導されているかどうかを検証する。オートファジー不全の影響を受けているステップが判明した際には、オートファジーが当該反応を抑制する分子機序を明らかにする。さらに、マクロファージの培養上清を用いたプロテオーム解析を行い、IL-1alpha/IL-1beta/IL-18以外にも、FA-Albの刺激に応じて放出される免疫調節因子があるか否かを検証する。最後に、オートファジー不全によりマクロファージからの放出が亢進するIL-1betaなどの免疫調節因子が、腎障害を起す免疫エフェクター細胞を誘導する機序について解析する。これらの解析により、過剰な遊離脂肪酸に暴露された際に、マクロファージにおけるオートファジー不全が非感染性の炎症を介した腎障害を誘導する分子機序を解明する。
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