研究課題
現代の日本では、医療・栄養水準の向上により多くの国民が長寿を享受している。一方で、過剰な栄養摂取による生活習慣病など、現代ならではの要因による疾患が顕在化してきている。これらの疾患の発症には、栄養代謝物などを感知した自然免疫機構を介して誘導される非感染性の炎症が深く関わっている。本研究では、栄養代謝物などが炎症を過度あるいは慢性的に誘導することにより健康被害をもたらすメカニズムを解明する。これまでの肥満関連腎臓病の解析では、C57BL/6バックグラウンドのマウスに高脂肪食を与えた上で、アルブミンと結合させた脂肪酸を腹腔に投与して負荷をかけるモデルが用いられてきた。従来モデルは有用であるが、長期にわたり高脂肪食を与えるために解析に時間がかかること、様々な応答の総和を見るので原因に容易にはたどり着けないことなどが問題点となる。そこで、過栄養摂取によってオートファジー活性が低下・不足すること、炎症応答においてはマクロファージなどのミエロイド系細胞が中心的な役割を果たすこと、C57BL/6バックグラウンドよりもBalb/c バックグラウンドのマウスが腎障害に感受性が高いことなどから、ミエロイド系細胞においてオートファジーに必須の因子を欠損するBalb/cバックグラウンドのマウスを作製した。当該マウスは、脂肪酸の腹腔内投与による腎障害に極めて高い感受性を示した。R2年度は、当該モデルマウス由来のサンプルについて質量分析を行い、炎症性サイトカインの他にも組織障害に伴って発現の上昇する分子があることを見出した。また、尿酸塩結晶などの代謝物結晶による炎症応答の解析も行い、尿酸塩結晶で刺激したマクロファージにおいて、インフラマソーム依存的IL-1beta放出やインフラマソーム非依存的IL-1alpha放出を抑制する化合物を同定し、特に有望な化合物を選定した。
2: おおむね順調に進展している
炎症に起因する肥満関連腎臓病のマウスモデルにおいて、疾患の発症に関わると推測される分子を同定することに成功した。また、尿酸塩結晶などによる炎症の誘導を抑制する化合物を同定した。
①過栄養摂取により体内に蓄積する遊離脂肪酸が腎障害を起こすメカニズムについて解析する。R2年度までの研究から、自然免疫を主に担当するミエロイド系細胞において細胞内クリアランス機構であるオートファジーを欠損したマウスは遊離脂肪酸に極めて高い感受性を示し、炎症を伴う腎障害を発症することを見出している。また、プロテオミクスにより、腎障害を発症したマウスの腎臓や尿において高発現する分子も同定している。そこでR3度は、腎障害モデルマウスに当該分子の阻害物質を投与し、症状が改善するか否かを検証する。関与が確認された場合には、遊離脂肪酸に応じて当該分子がどのような機序で放出されるのか(とりわけ、オートファジーはどのように関係するのか)、放出された当該分子がどのような機序で腎障害の誘導に関わるのかなどを明らかにする。②炎症を抑制する化合物の疾患モデルにおける治療効果を検証する。R2年度までの研究から、尿酸塩結晶やシリカなどの粒子で刺激したマクロファージにおいて、インフラマソーム依存的IL-1beta放出やインフラマソーム非依存的IL-1alpha放出を抑制する化合物を複数同定し、特に有望な化合物を選定した。R3年度は、選定した化合物をビオチンなどに架橋し、マクロファージの細胞破砕液とインキュベートした後に、ストレプトアビジンビーズで精製する。化合物と結合するタンパク質を質量分析により決定し、当該化合物の作用機序を明らかにする。また、粒子刺激に応じてリン酸化状態の変動するタンパク質をプロテオミクスにより包括的に同定し、粒子刺激による炎症に関わる新たな分子をスクリーニングする。有力な分子については、その阻害化合物を尿酸塩結晶によるマウス痛風モデルなどに投与して、当該分子の疾患発症への関与を検証する。
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