現代の日本では、医療・栄養水準の向上により多くの国民が長寿を享受している。一方で、環境汚染物質による呼吸器障害や過剰な栄養摂取による生活習慣病など、現代ならではの要因による疾患が顕在化してきている。これらの疾患の発症には、微粒子などを感知した自然免疫機構を介して誘導される非感染性の炎症が深く関わっている。本研究では、微粒子などが炎症を過度にあるいは慢性的に誘導することにより健康被害をもたらすメカニズムに関する研究を行った。前年度までに、マクロファージにおいて、微粒子がインフラマソーム依存的IL-1beta放出やインフラマソーム非依存的IL-1alpha放出を引き起こすことを見出し、加えて当該応答を抑制する化合物としてOridoninを同定している。本年度も引き続き研究を進め、シリカの微粒子によりマウスにおいて肺障害を引き起こすモデルにおいて、IL-1alphaが肺障害の誘導に関与することを中和抗体を用いた解析により明らかにした。一方で、IL-1betaは肺障害に関与していないことを、インフラマソーム構成分子の遺伝子欠損マウスを用いた解析により明らかにした。また、IL-1alphaとIL-1betaの放出を同時に阻害することが出来るOridoninの投与によって、肺障害の症状は緩和されることを明らかにした。肺の障害度は、肺胞洗浄液中に漏出するアルブミンを指標として評価した。さらに、マクロファージを用いた解析から、Oridoninはシリカの微粒子によりファゴソームが損傷する段階に作用し、パイロトーシスを抑えることで抗炎症効果を発揮していることを明らかにした。以上の成果をまとめて論文として投稿した。
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