研究課題
表皮は、体内の生命環境と非生命環境との間の境界バリアの役目を持ち体内からの水分の蒸発、体液の漏出あるいは病原体などの侵入から体を守っている。しかし、その代謝系の破綻は多岐に渡る皮膚疾患と関連する。代表者はこれまでに、リン脂質代謝酵素ホスホリパーゼA2(PLA2G2F)により産生されるプラズマローゲン型リゾリン脂質(P-LPE)が表皮肥厚性疾患を制御する新規リゾリン脂質であることを同定した。しかしこのP-LPEが作動する分子機構および作用機序については充分に理解されていない。本研究ではこれまでの研究を継続発展させP-LPEを基軸とした表皮肥厚性疾患の新たな制御機構が明らかにすることを目的としている。本年度は以下の項目について明らかにした。1)ヒト尋常性乾癬モデルのK5-Stat3C-Tgでは対照と比較してsPLA2-IIFおよびP-LPE経路の増加が認められ、このモデルにおいてもPLA2G2F/P-LPE経路を持つことが示唆された。2)表皮角化細胞株NHEK/SVTERT3-5を用いて乾癬を反映する三次元in vitroモデルを作成した。このモデルでは細胞の三次元化に伴い炎症が惹起されるが、sPLA2-IIFのノックダウンにより細胞の三次元化と炎症が緩和された。さらに、この状態にP-LPEを添加すると表現型が回復した。3)上記のin vitro系を用いて候補となる受容体の絞り込みをおこない、受容体欠損マウスを作成した。4)尋常性乾癬の患者の角質からヒトにもPLA2G2F/P-LPE経路が存在することが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
本年度は以下のように研究課題を実施し、概ね順調に進展している。1)ヒト尋常性乾癬モデルのK5-Stat3C-Tgでは対照と比較してsPLA2-IIFおよびP-LPE経路の増加が認められ、このモデルにおいてもPLA2G2F/P-LPE経路を持つことが示唆された。2)乾癬を反映する三次元in vitroモデルを作成した。このモデルでは細胞の三次元化に伴い炎症が惹起されるが、sPLA2-IIFのノックダウンにより細胞の三次元化と炎症が緩和された。さらに、この状態にP-LPEを添加すると表現型が回復した。3)上記のin vitro系を用いて候補となる受容体の絞り込みをおこない、受容体欠損マウスを作成した。4)尋常性乾癬の患者の角質からヒトにもPLA2G2F/P-LPE経路が存在することが明らかとなった。
本研究の目的を達成するために以下の研究計画を遂行する。1)尋常性乾癬モデルを用いたPLA2G2F/P-LPE経路の解明。昨年度はヒト尋常性乾癬モデルのK5-Stat3C-TgにおけるPLA2G2F/P-LPE経路を明らかにし、これを基軸とする治療効果を示すことができた。本年度は論文化を見据えて細かなデーターを揃える予定である。2)in vitroにおけるプラズマローゲン型リゾリン脂質代謝経路の分子機構の解明。昨年度は表皮角化初代培養細胞系を構築しP-LPEが慢性皮膚炎症疾患に寄与することを明らかにした。本年度はP-LPE代謝物が皮膚バリア構築に寄与することを明らかにする。3)プラズマローゲン型リゾリン脂質の作用点を同定と生物学的意義の解明。昨年度は上記のin vitro系を用いて候補となる受容体を絞り込み受容体欠損マウスを作成した。本年度は受容体欠損マウスを維持し、年度後半に慢性皮膚炎症疾患への寄与を明らかにしていく。4)ヒト臨床検体を用いた皮膚疾患とプラズマローゲン型リゾリン脂質の相関性の検証。昨年度は尋常性乾癬の患者の角質を用いてヒトにもPLA2G2F/P-LPE経路が存在することを明らかにした。本年度も引続き検体を50症例程まで集め相関性を確実にする。
すべて 2019 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
Biochimica et Biophysica Acta (BBA) - Molecular and Cell Biology of Lipids
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