研究課題/領域番号 |
19H03378
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
今村 武史 鳥取大学, 医学部, 教授 (00552093)
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研究分担者 |
土屋 英明 滋賀医科大学, 動物生命科学研究センター, 技術専門職員 (10378440)
上田 悦子 鳥取大学, 医学部, 講師 (40335526)
三明 淳一朗 鳥取大学, 医学部, 准教授 (40372677)
伊藤 靖 滋賀医科大学, 医学部, 教授 (90324566)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 糖尿病合併症 / 幹細胞障害 / galectn-3 |
研究実績の概要 |
糖尿病合併症の1つである網膜症が失明の原因疾患第2位、腎合併症は人工透析導入の原因疾患第2位という状況が持続する中、発症した糖尿病合併症に対する治療薬の必要性は明白であるが、未だに有効な合併症治療薬が見出されない。これまでに我々は、インスリン抵抗性因子Galectin-3が生体内幹細胞機能障害を惹起する可能性を見出した。幹細胞から供給される臓器・組織細胞数の減少、あるいは幹細胞自体の増殖能障害が生じれば、糖尿病合併症としての全身的な臓器・組織障害につながる可能性が考えられる。そこで本研究計画では、インスリン抵抗性因子Galectin-3が糖尿病合併症の治療標的となり得るかについて検証することを目的とする。得られる成果は糖尿病合併症に対する根本的な治療薬開発につながる可能性がある。 具体的には、1)糖尿病病態因子 Galectin-3による幹細胞障害機序の検討、および2) galectin-3負荷および抑制個体における生体内幹細胞機能の検証の2点について実験を進めている。初年度の成果として細胞培養実験では、galectin-3附置が通常培養条件下のヒトiPS細胞機能に有意な影響は認めなかったが、パルミチン酸負荷条件下ではgalectin-3附置により中胚葉系細胞への分化効率を低下させることを見出した。個体レベルでの検討として、外因性galectin-3負荷マウスを用いたヒトiPS細胞免疫隔離カプセル移植実験では、対照個体から回収した移植iPS細胞と比較して三胚葉特異的分化マーカー遺伝子発現量の一部に低下が認められた。今後、移植後カプセルより回収される間質液の解析を進めることにより、galectin-3負荷固体における幹細胞機能変化の機序解明を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に計画した実験項目は概ね予定通りに実施できている。その成果として 細胞培養実験では、galectin-3附置が通常培養条件のヒトiPS細胞機能(増殖能、分化能)に有意な影響を与えないが、パルミチン酸負荷培養条件ではgalectin-3附置による中胚葉特異的分化マーカー遺伝子発現量を低下させることを見出した。galectin-3による幹細胞への直接作用について次年度に引き続き解明を進める。 個体レベルでの検討として、高脂肪食負荷マウスおよび健常マウスに対するヒトiPS細胞免疫隔離カプセル移植実験では、回収細胞における細胞活性(レゾルフィンアッセイ)に両群間の有意差は認められなかった。一方、回収細胞における三胚葉特異的分化マーカー遺伝子発現量の一部において有意差は付かなかったが低下傾向を認めた。さらに、外因性にgalectin-3負荷(腹腔内投与)したマウスを用いたところ、現時点で三胚葉特異的分化マーカー遺伝子発現量の一部に低下を認めた。培養細胞実験結果とは異なる部分が認められたため、生体内ではgalectin-3負荷により惹起される他の因子が間接的に幹細胞機能へ影響を与えることが示唆された。免疫隔離カプセル移植実験では、カプセル封入細胞と移植ホスト細胞との接触が生じないため、カプセルの多孔性膜を通過しうるホスト固体間質液中(液性)の因子によって変化が生じたと考えられるため、これまでにカプセルより回収した間質液の内在因子について、マルチプレックス解析を進める予定である。また、本研究成果をヒト臨床に外挿する視点から、本計画ではカニクイザル糖尿病モデルを用いたヒトiPS細胞免疫隔離カプセル移植実験を行い、マウス個体より得られた結果を検証する。現時点で使用可能な糖尿病個体は3頭であるため、n数確保へ特別食負荷による糖尿病個体作出を現在進めている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度計画では計画通り、マウスおよびカニクイザルモデル個体を用いたヒトiPS細胞免疫隔離カプセル移植実験を進める。また、当初はgalectin-3による幹細胞への直接作用は無いとの仮説をもっていたが、初年度の成果は直接作用の存在を示唆することから、培養細胞レベルでの実験系を併行して実施する。即ち、初年度の成果として明らかとなったgalectin-3による幹細胞への直接作用について、パルミチン酸負荷以外のストレス負荷によっても上記同様の幹細胞機能変化が認められるかを含め、galectin-3の作用点および作用機序の解明を進める。 ヒトiPS細胞免疫隔離カプセル移植実験では、外因性galectin-3負荷マウスに認められた三胚葉特異的分化マーカー遺伝子発現量の一部低下が、galectin-3以外にどのような因子を介して惹起され得るのか、これまでに免疫隔離カプセルから回収した組織(間質)液の内在因子について、マルチプレックス解析による検索を進め、ヒットしない場合にはLC/MS解析を実施する。カニクイザル糖尿病モデルを用いたヒトiPS細胞免疫隔離カプセル移植実験に向け、特別食負荷による糖尿病個体数の確保を進めており、次年度に計画通り実施予定である。
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