平滑筋細胞の増殖は、血管恒常性の維持と、動脈硬化など様々な平滑筋リモデリング疾患の形成に重要であるが、その機構に関して未だ不明な点が多い。特に、細胞増殖時の[Ca2+]cyt上昇に対するCa2+マイクロドメインの関与は不明である。我々は、ミトコンドリアとSRの物理的連結に重要とされるmitofusin2(Mfn2)がミトコンドリアとSR間のCa2+シグナルの機能的ネットワークを構築することで、代謝や転写因子の活性化、細胞周期の回転等を起こすと仮定した。ラット大動脈平滑筋細胞に対して、siMfn2を導入しMfn2をノックダウンした結果、①ミトコンドリアの断片化およびミトコンドリア-SR間の相互作用の減少、②バソプレシン刺激時の[Ca2+]cyt上昇の減衰速度の低下とミトコンドリアへのCa2+取り込み量の減少、③ミトコンドリア電位勾配の減少とATP濃度の低下、細胞増殖速度の低下、が認められた。以上より、Mfn2はCa2+ネットワークの構築とATP産生を介して血管平滑筋細胞増殖に関与し、循環器疾患発症メカニズムの一端を担う可能性がある。 血管平滑筋細胞のカベオラ内にCav1.2-CaMKK2-CaMK1a分子複合体が形成されることを見出した。脱分極刺激によるCav1.2チャネルが活性化して、流入したCa2+がCaMKK2およびCaMK1aを活性化すること、またCaMKK2がCaMK1aを完全に活性化してその核移行を誘発することを発見した。これにより、核内でCa2+シグナルがマクロファージの遊走・浸潤を促進する遺伝子群の転写に変換された。実際にマウス生体で腸間膜動脈に対して圧負荷をかけたところ、平滑筋細胞におけるCREBのリン酸化と血管外膜へのマクロファージの遊走と中膜肥厚が観察された。一方で、cav1-KOマウスやCaMKK2阻害薬STO609を投与したマウスではこれらの反応が減弱された。この一連の研究により、血管障害後のマクロファージの集積および血管リモデリングの発生に関する分子メカニズムの一端が明らかになった。
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