研究課題
食事や大気中には微量の環境親電子物質が含まれており、その累積によって疾患発症リスクが増加する可能性が指摘されている。有機水銀は水俣病の原因としてよく知られている環境親電子物質の一つであり、普段我々が摂取するマグロや鯨にも微量の有機水銀が含まれている。神経障害を発症しない微量のメチル水銀を飲水させたマウスに大動脈狭窄を行ったところ、マウスの生存率が劇的に低下した。メチル水銀曝露マウス心臓では、ミトコンドリアが著しく分裂しており、これはDrp1-filamin相互作用阻害剤(シルニジピン)を投与することで抑制された。メチル水銀はDrp1のCys624のポリイオウ鎖からイオウを奪い取ることでDrp1のGTP/GDP交換因子であるfilaminとの相互作用を増強させた。以上より、環境親電子センサーとしてのタンパク質ポリイオウ鎖の新たな役割が示された。心筋萎縮の治療に関する研究も行った。ドキソルビシン(DOX)は様々な悪性腫瘍に有効な抗腫瘍作用を示す一方で、食欲不振や吐き気、運動不足によって廃用性筋萎縮様症状も起こしうる。TRPC3とNox2がマクロファージに多く発現していることに着目し、Raw264.7細胞株のドキソルビシン誘発性細胞死を指標に、1280種類の既承認薬の中からTRPC3-Nox2機能共役を抑制する化合物の探索を行った。その結果、ヒットした8化合物のうち、イブジラスト(気管支拡張薬)が最も強く抑制することを見出した。イブジラストはドキソルビシン投与によるTRPC3-Nox2複合体形成とそれに伴うNox2タンパク質発現増加、酸化ストレス障害、マウス体重量・組織重量の低下を顕著に抑制した。以上の結果は、TRPC3-Nox2複合体が抗がん剤投与による筋組織萎縮の原因となり、薬理学的にこれを抑制することが個体機能低下を軽減する新たな治療戦略となることを示唆している。
1: 当初の計画以上に進展している
心筋の早期老化誘導のメカニズムとして、病態特異的なDrp1-filaminタンパク質間相互作用が起こる根底にDrp1タンパク質中のシステインポリイオウ鎖が関与することを新たに見出した。また、心筋萎縮の原因となるTRPC3-Nox2タンパク質複合体形成を抑制する既承認薬を複数同定し、薬理学的解析の新たなツールを得ることに成功した。
我々が見出した病態特異的タンパク質間相互作用の分子制御機構を解明するとともに、心臓以外の臓器・組織においても同じ機構が働くかどうか、作用機構の普遍性を明らかにし、創薬標的としての妥当性を実証する。
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