病態特異的なミトコンドリア分裂の引き金となるdynamin-related protein (Drp) 1とアクチン結合タンパク質filaminが結合する領域情報を基に、医薬基盤研・水口賢司グループにin silico解析を依頼して、シルニジピンが結合しうるDrp1タンパク質部位を予測していただいた。予測データを基にDrp1の1アミノ酸変異(mutagenesis)変異体を用いた評価を行った結果、GTPaseドメインに含まれる特定のアミノ酸1残基がシルニジピンとの結合に重要であることを見出した。シルニジピン非感受性Drp1発現細胞では、低酸素ストレス曝露によるミトコンドリア過剰分裂および細胞障害がシルニジピン処置で抑制されなくなることも確認された。Drp1-filamin複合体形成は心不全のみならず、重度の高血糖を伴う糖尿病での臓器障害や、デュシェンヌ型筋ジストロフィーにおける骨格筋萎縮、骨髄由来マクロファージのM1分化に伴う炎症応答や炎症性腸疾患の進行に関わることもマウスで明らかにした。 さらに、心不全の重症化リスクとDrp1活性との関係についても検討した。心不全と最も関連あるリスク因子である喫煙に着目し、ラット新生児心筋細胞にタバコ副流煙を曝露させたところ、著しいミトコンドリア分裂を伴う細胞老化が誘導されることを見出した。これらの心筋ストレス応答は、シルニジピン処置およびDrp1またはfilaminのノックダウンによって有意に抑制された。興味深いことに、タバコ副流煙曝露はDrp1のC端に存在すCys624のポリ硫黄鎖を脱硫黄化(=かさ減り)させることでDrp1活性を増大することが明らかとなり、ここに親電子性をもつ酸化型グルタチオン(GSSG)を投与し、Cys624をグルタチオン化(=かさ増し)することで心筋老化が抑制されることを明らかにした。
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