前年度までの研究から、皮膚細胞ではアバカビル(ABC)がB*5701多型特異的に小胞体ストレス(ERストレス)を引き起こすことがわかっている。ERストレス発生に組織選択性があるか知るため、ABCの経口投与後、組織を単離してERストレスマーカーの発現を調べた。その結果、皮膚ではERストレスが生じていることが確認された一方、肝臓、腎臓、脾臓ではERストレスが起こっていないことがわかった。厳密には他の組織も網羅する必要があるが、ERストレスには一定の組織選択性があることが示された。 ERストレスが皮膚症状に関連しているか調べるため、in vivoでERストレス緩和剤の併用を試みた。予想外に、多型導入マウスではABCの単回経口投与6時間以内に耳介皮膚血管透過性が亢進することが見出され、これがERストレス緩和剤でキャンセルされた。さらに、昨年度までに確立した、PD1欠損CD4除去条件でのABC連投による5日目以降の皮膚炎症についてもERストレス緩和剤併用でキャンセルされた。同モデルでは、ABC投与により皮膚組織へのT細胞遊走に関わるケモカインTARCの血清中濃度が上昇すること、TARCを抗体で中和すると末梢のCD8T細胞の活性化はそのままで、皮膚組織へのCD8T細胞浸潤と皮膚炎症が抑制されることも確認している。ERストレス緩和剤併用時には、末梢CD8T細胞は活性化したまま、TARCの血清中濃度上昇が抑制され、これに伴いCD8T細胞の皮膚への浸潤、炎症の抑制を認めた。 以上から、ABCを単回経口投与して数時間後、つまり感作相ごく初期の時点、さらには連投数日後の惹起相の時点の両方において、皮膚組織選択的かつHLA多型依存的なERストレスが過敏症様症状の発現に関わっていることが示唆された。
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