研究課題/領域番号 |
19H03387
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
畠山 浩人 千葉大学, 大学院薬学研究院, 准教授 (70504786)
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研究分担者 |
新留 琢郎 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 教授 (20264210)
佐野 誠 日本大学, 医学部, 准教授 (70339323)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 免疫チェックポイント阻害剤 / 腹膜播種 / 脂質ナノ粒子 / 腹腔内投与 |
研究実績の概要 |
(1)KPC膵癌細胞同所移植、腹膜播種モデルの確立。R2年度は遺伝子組換え動物の系統維持が最小限に限定されKPC自然発症膵癌マウスを十分に確保できなかった。そこでKPC膵癌の膵臓同所移植や大腸がん細胞や腹水転移乳がん細胞を腹腔内移植し腹膜播種モデルを確立した。 (2)腹腔内投与後の抗体医薬と脂質ナノ粒子(LNP)の膵臓選択的移行メカニズムの解明。放射性同位体標識抗PD-L1抗体をi.v./i.p.投与すると、KPC腫瘍やMC38腫瘍においてi.p.投与後に移行量が2~10倍程度上昇した。また足裏リンパ管内投与や単離臓器への浸透実験から、抗体はi.p.投与後に臓器表面から浸透し、リンパ管を介して排泄されることが示唆された。LNPを蛍光標識し、i.v./i.p.投与したところMC38腫瘍でi.p.投与後の移行量はi.v.投与後より約10倍増加した。LNPは腫瘍組織端から数百um浸透していたが、組織中心部の分布は観られなかった。またsiRNA送達による標的遺伝子ノックダウンはLNPが分布した部位に限られた。 (3)腹腔内腫瘍モデルマウスにおける免疫チェックポイント阻害剤の感受性評価。KPC膵癌同所移植モデルでは抗PD-L1抗体のi.v./i.p.投与後に有意な抗腫瘍効果は観られなかった。MC38腹膜播種モデルではi.p.投与後は顕著な腫瘍体積と腹水の減少を観察し、i.p.投与は抗体医薬の腹膜腫瘍への送達経路として有用であることが示された。 (4)in vivo温熱処置と応答性の評価。金ナノロッドと近赤外光照射によって、50~55℃で5~10分間腫瘍組織を局所温熱処置する条件を確立した。免疫原性細胞死はHMGB1の核外放出がその指標となっている。細胞系にて金ナノロッドによる温熱処置後に、HMGB1が核外へ放出することを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルスの影響で、自然発癌KPCマウスを用いた実験ができなかったため、急遽同所移植や腹膜播種などいくつかの腹腔内腫瘍の確立を行う必要があったため、予定していた計画は変更せざるを得なかった。一方で、抗体医薬と脂質ナノ粒子の腹腔内投与後の腫瘍組織への移行メカニズムがおおよそ同定に至った。また10nmの抗体医薬と比較して約100nmの脂質ナノ粒子では腫瘍組織中の分布に大きな差があり、サイズの差が間質などによる分散の妨げとなることが示されるなど確立したいくつかのモデルを用いることで様々な情報を取得可能となり移行メカニズムの解明が大きく進んだ。またi.p.投与後に免疫チェックポイント阻害剤はi.v.投与と比較し優れた薬効を示し、腹腔内腫瘍に対して有用な送達経路であることも示すことができた。一方で、核酸の腫瘍組織への送達は一部に限定されるため、改善の余地がある。 また、同所移植系などでの温熱処置の実験条件の確立を行ったため、温熱治療実験を行うまでには至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
LNPはi.p.投与後に腫瘍組織表面に留まっていたため、核酸医薬の送達は限定的であった。腫瘍微小環境の間質がLNPの浸透を妨げていると考えられ、ヒアルロン酸分解酵素やCTGFのノックダウンによる間質除去を行い浸透性の改善を検討する。またヒアルロン酸分解酵素をコードしたmRNAを送達し腫瘍組織で選択的に発現させることが可能か検討し、i.p.投与後のLNP分布改善に取り組み、その後核酸医薬の送達が改善するか検証する。 また腹腔内腫瘍モデルにおける金ナノロッドのi.p.投与後の送達量の定量を行う。送達が確認された後、温熱治療実験に着手し、温熱処置後の免疫原性細胞死が誘導可能な癌腫を選定し、その後の免疫応答についてフローサイトメーターにて確認する。すでにi.p.投与によって免疫チェックポイント阻害剤の薬効が向上したモデルを中心に併用効果や、温熱感受性化後にその効果が向上するか検証する。
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