研究実績の概要 |
GPR34はG蛋白共役型受容体に属する細胞膜上に存在する受容体である。最近、リゾリン脂質の中でもリゾフォスファチジルセリンがリガンドであることが明らかになった。我々は遺伝子スクリーニングによりGPR34が脳内でミクログリア特異的に発現していることを同定し、神経障害により発現量が激増することを見出した。この脂質受容体の神経損傷における機能について同定するために、坐骨神経部分切断(L4切断)による疼痛モデルを用いて、疼痛行動におけるGPR34 の機能について検討した。GPR34 のノックアウトマウスを用いた実験では、神経損傷後に観察される脊髄後角でのミクログリアの増加やその活性化型の形態には変化が見られなかった。しかし、脊髄後角での炎症性サイトカイン(TNFalpha, IL-1beta, IL-6)の遺伝子発現は低下していた。さらにvon Freyテストにより疼痛行動を解析したところ、GPR34 ノックアウトマウスでは疼痛閾値の低下がみられた。以上のことからGPR34 を介したシグナルはミクログリアの増殖や形態変化には影響を及ぼさないが、炎症応答には関係しており、疼痛を惹起するシグナルと考えられた。次に野生型マウスの疼痛モデルを用いて、GPR34 のアンタゴニストを髄腔内に投与したところ、部分的に疼痛を抑制できることが示された。以前の研究と今回の結果を合わせて考察すると、神経損傷により生じるリゾフォスファチジスセリンはミクロクリアのGPR34 に作動して炎症性応答を増強し神経障害性疼痛を増悪していると考えられた。
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