研究実績の概要 |
脂質受容体として知られるTREM2/DAP12複合体の健常脳における機能について、本研究の一部の成果を踏まえて総説を発表した(Konishi & Kiyama, Neurochem Int 2020)。また、コレステロールトランスポーターのABCA1を介した損傷神経再生メカニズムについては引き続き遺伝子改変動物を用いて検討している。リゾフォスファチジルセリン受容体のGPR34については、硬膜内の肥満細胞やマクロファージとの関連でも研究を進めている。これらとは別にミクログリアをはじめとした神経系細胞の形態変化を誘導する因子として、フォスファチジルセリンの局在によるCdc42の局所へのリクルートが重要であることを我々は以前報告した(Tokizane et al, Glia 2017)。また、このCdc42と機能的に相同で神経細胞に発現するTC10が損傷後の運動神経が再生する際に強く発現誘導され、膜の形態変化(神経突起形成)に関わることも報告した(Tanabe et al, J Neurosci 2000)。本年はTC10コンディショナルノックアウトマウスなどの遺伝子改変動物が揃ったことから、TC10が損傷神経の再生に必要であることをin vivoで証明した(Koinuma et al, J Neurochem 2020)。また、神経損傷時や神経変性疾患においてミクログリアが変調をきたした時に、アストロサイトが代わって貪食を行うこと、その際、貪食標的細胞の膜脂質フォスファチジルセリンとそれに結合する介在分子や受容体をメディエーターとして貪食するメカニズムを明らかにした(Konishi et al, EMBO J 2020)。以上のように、軸索損傷後の神経細胞や周辺グリア細胞間で引き起こされる様々な現象動態には脂質が関与し、損傷神経の応答や再生に関係していることが明らかになった。
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