研究課題/領域番号 |
19H03397
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
久保田 義顕 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 教授 (50348687)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 血管 / 血管内皮細胞 / VEGF |
研究実績の概要 |
本研究は、臓器によって異なる血管パターニングの多様性がいかにして獲得されるかを解剖学・細胞生物学・生化学、in vivoイメージングなど多様な技術を統合して取り組む研究課題である。当該分野(血管生物学)における従来研究との大きな違いは、これまでのように『血管形成』という現象を画一化したうえで、十把一絡げに理解しようとはせず、臓器機能発揮のために如何様にもカスタマイズされる多様な現象であるとし、より大きな枠組みで物事を捉え、その本質を解き明かすという点である。また、血管が伸びるメカニズムよりむしろ特定の局所には血管が伸びないメカニズム、さらには不要な血管が退縮していく過程を重視するとともに、『臓器の成長に伴う物理的な力』『同じリガンドに対する受容体の使い分け』などの新たな要素を加えたユニークなアプローチにより研究を展開している。2019年度の研究における代表的な成果としては、眼球の瞳孔膜の血管リモデリング過程に関与する複数の生物学的因子を同定したこと、肺Clara細胞において血管特異的受容体と言われるVEGFR2が異所性に強く発現するものの、ノックアウトマウスの解析から肺の発生自体に必要でないこと、さらには硬組織の血管可視化に成功し、骨や歯において独特の細胞間相互作用が存在すること確認している。2020年度はこれらの知見をさらに発展させ、臓器によって異なる血管パターニングの多様性獲得機構の本質に迫ることを目標とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画に記載した3項目について、以下詳細を記載する。 ・臓器成長よって生じる物理的な力が血管リモデリングに及ぼす影響: 眼球、特に新生仔期に劇的な血管のリモデリングが起こる瞳孔膜に着目して本項の研究を展開された。研究代表者独自のマウス瞳孔膜血管のホールマウント可視化技術やin vivoイメージング技術、VEGF受容体レポーターマウスを駆使しこの血管リモデリング過程を解析したところ、マクロファージによる貪食作用と虹彩を回り込む血管(looping vessel)が瞳孔の形態形成に必要であることを見出した。 ・『場の不均衡性』を緩衝し、血管の均等な成長を担保する細胞・分子機構:神経特異的VEGFノックアウトマウスでは、腹側の血管成長が著しく障害されるものの、背側ではほぼ正常に血管は発生する。これは場の不均衡性を是正する何らかの血管新生修飾メカニズムが、網膜には存在すると考えられる。その手掛かりとして、VEGFの受容体の一つであるVEGFR3が、網膜腹側の血管、グリア細胞のみに発現することを見出している。実際、VEGFR3の血管内皮特異的欠失マウスを作成・解析したところ、血管成長の極性が喪失することを見出している。 ・『VEGF受容体の使い分け』による臓器血管多様性の担保と病態における変遷:網膜でみられるVEGFR2によるVEGFの取り込み機構を全身各臓器で探索したものの、血管以外でVEGFR2が発現するのは肺Clara細胞のみであった。これに関し、Clara細胞特異的VEGFR2欠損マウスを作成・解析したが、血管と気管支の伴走性、肺の血管パターニング構築に大きな以上は見られなかった。また、神経由来VEGFは神経栄養作用とは無関係に、脳海馬の形成過程に寄与することを見出し報告した(Okabe et al., Dev Biol 2019)。
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今後の研究の推進方策 |
上記3項目について、それぞれ研究推進方策を記載する。 ・臓器成長よって生じる物理的な力が血管リモデリングに及ぼす影響:瞳孔膜血管リモデリング過程において、ホールマウント可視化技術やin vivoイメージング技術を駆使し、マクロファージによる貪食作用と虹彩を回り込む血管(looping vessel)の瞳孔の形態形成における共調の詳細を明らかにする。 ・『場の不均衡性』を緩衝し、血管の均等な成長を担保する細胞・分子機構:上記VEGFR3の血管内皮特異的欠失マウスの表現型の解析をさらに進める。特に血管の増殖、sprouting、刈込などのパラメーターを定量化し、極性喪失の基盤を明らかにする。 ・『VEGF受容体の使い分け』による臓器血管多様性の担保と病態における変遷:本項については、硬組織(骨組織や歯など)にフォーカスし多面的に研究を展開する。昨年度確立した高精度な可視化技術を駆使し、硬組織の血管形成の形態学的・分子生物学的特徴を明らかにする。これまで歯における血管形成において、象牙芽細胞と血管内皮細胞の両方向性のフィードバックループが血管発生および歯の発生に重要なことを見出し、その分子基盤としてVEGF-VEGFR2シグナルが関わることを示唆する所見を得ている。また、骨の血管発生、特に一時骨化中心と二次骨化中心の血管構築の違いを規定する分子機構として、VEGFのdecoy受容体(いわゆる『おとり』受容体」として古くから知られるVEGFR1が関与することを示唆する所見を得ている。特に可溶型のVEGFR1(sVEGFR1)のみを欠失するマウス、血管内皮特異的に欠失させるマウスも作成済みである。これらの遺伝子改変マウスの解析を通じ、その寄与が示唆される硬組織の血管形成過程をVEGF受容体の使い分けの観点から解き明かす。
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