研究課題
本研究は、臓器によって異なる血管パターニングの多様性がいかにして獲得されるかを解剖学・細胞生物学・生化学、in vivoイメージングなど多様な技術を統合して取り組む研究課題である。当該分野(血管生物学)における従来研究との大きな違いは、これまでのように『血管形成』という現象を画一化したうえで、十把一絡げに理解しようとはせず、臓器機能発揮のために如何様にもカスタマイズされる多様な現象であるとし、より大きな枠組みで物事を捉え、その本質を解き明かすという点である。また、血管が伸びるメカニズムよりむしろ特定の局所には血管が伸びないメカニズム、さらには不要な血管が退縮していく過程を重視するとともに、『臓器の成長に伴う物理的な力』『同じリガンドに対する受容体の使い分け』などの新たな要素を加えたユニークなアプローチにより研究を展開している。2020年度の研究における代表的な成果としては、眼球の瞳孔の形成過程において、血管とマクロファージが共調して瞳孔縁を平滑化していること(Takahashi et al., Dev Biol 2020)、血管とリンパ管の分離にはがん抑制遺伝子であるFlcnが必要であること(Tai-Nagara et al., Nat Commun 2020)さらには硬組織の血管可視化に成功し、骨や歯において独特の細胞間相互作用が存在すること確認している。2021年度はこれらの知見をさらに発展させ、臓器によって異なる血管パターニングの多様性獲得機構の本質に迫ることを目標とする。
2: おおむね順調に進展している
研究実施計画に記載した3項目について、以下詳細を記載する。・臓器成長よって生じる物理的な力が血管リモデリングに及ぼす影響: 眼球、特に新生仔期に劇的な血管のリモデリングが起こる瞳孔膜に着目して本項の研究を展開された。研究代表者独自のマウス瞳孔膜血管のホールマウント可視化技術やin vivoイメージング技術、VEGF受容体レポーターマウスを駆使しこの血管リモデリング過程を解析したところ、マクロファージによる貪食作用と虹彩を回り込む血管(looping vessel)が瞳孔の形態形成に必要であることを見出した(Takahashi et al., Dev Biol 2020)。・『場の不均衡性』を緩衝し、血管の均等な成長を担保する細胞・分子機構: 神経特異的VEGFノックアウトマウスでは、腹側の血管成長が著しく障害されるものの、背側ではほぼ正常に血管は発生する。これは場の不均衡性を是正する何らかの血管新生修飾メカニズムが、網膜には存在すると考えられる。その手掛かりとして、VEGF受容体と共役してはたらくEphrinb2が、網膜背側の神経のみに発現することを見出している。実際、Ephrinb2の網膜神経特異的欠失マウスを作成・解析したところ、血管成長の極性が喪失することを見出している。・『VEGF受容体の使い分け』による臓器血管多様性の担保と病態における変遷:骨や歯の血管形成過程において、VEGFR1とVEGFR2の発現がそれぞれユニークなパターンを示し、その使い分けがそれぞれの構造的特徴を決定づけること見出している。
上記3項目について、それぞれ研究推進方策を記載する。・臓器成長よって生じる物理的な力が血管リモデリングに及ぼす影響: 瞳孔膜血管リモデリング過程において、マクロファージによる貪食作用と虹彩を回り込む血管(looping vessel)の瞳孔の形態形成における共調の詳細を数理生物学的に明らかにする。・『場の不均衡性』を緩衝し、血管の均等な成長を担保する細胞・分子機構: 上記Ephrinb2の網膜神経特異的欠失マウスの表現型の解析をさらに進める。特に血管の増殖、sprouting、刈込などのパラメーターを定量化し、極性喪失の基盤を明らかにする。・『VEGF受容体の使い分け』による臓器血管多様性の担保と病態における変遷: 本項については、硬組織(骨組織や歯など)にフォーカスし多面的に研究を展開する。これまでに確立した高精度な可視化技術を駆使し、硬組織の血管形成の形態学的・分子生物学的特徴を明らかにする。これまで歯における血管形成において、象牙芽細胞と血管内皮細胞の両方向性のフィードバックループが血管発生および歯の発生に重要なことを見出し、その分子基盤としてVEGF-VEGFR2シグナルが関わることを示唆する所見を得ている。また、骨の血管発生、特に一時骨化中心と二次骨化中心の血管構築の違いを規定する分子機構として、VEGFのdecoy受容体(いわゆる『おとり』受容体」として古くから知られるVEGFR1が関与することを示唆する所見を血管内皮特異的ノックアウトマウスの結果から得ている。これらの遺伝子改変マウスの解析、シングルセルRNAシーケンシングなどを通じ、硬組織の血管形成過程をVEGF受容体の使い分けの観点から解き明かす。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 4件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 5件)
Nature Communications
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10.1016/j.ydbio.2020.06.004